9. 手術を受ける前に行う処置・治療について
1)手術に必要な準備:
・禁煙
喫煙は術後の肺炎のリスク(気管支炎の存在)を高めるだけではなく、術後の傷の治りも悪くしてしまい(ニコチンの存在)、あらゆる面で手術に悪影響を及ぼします。最低1ヶ月以上の禁煙が必要です。吸う本数を減らすことでは意味がなく、1本も吸わない完全な禁煙のみ意味があります。タバコを吸っている状態で手術を受けることは、術後に重大な合併症が発生する危険性が極めて高くなり、生命に危険を及ぼす可能性があり、非常に危険です。食道がんで命に直結する一番怖い合併症は肺炎といっても過言でありません。その予防のために、確実に禁煙しましょう。
・呼吸機能訓練
食道がん手術は術後の肺炎のリスクが高い手術と言われています。そのため術前より呼吸機能訓練を行うことが術後肺炎の予防には非常に重要になります。インセンティブスパイロメトリーという呼吸訓練器を用いて自主的なトレーニングを行ったり、理学療法士による呼吸器リハビリテーションを行います。いずれも術前から十分な期間行うことが非常に重要です。術後肺炎の予防に関しては、患者さんの自主的な努力が大きな割合を占めており、術前にどこまで患者さんが頑張って呼吸機能訓練を行うかがカギとなります。
・歩行訓練
訓練器具によるトレーニングと同様に、術後は歩くことによる呼吸器トレーニングも行います。そのため、術前から歩く練習を行いましょう。場合によっては、水泳などを行なうことも呼吸機能を高めるトレーニングとなります。
・歯科受診
口のなかのケアを行い、口腔内細菌を減らしておくことが術後感染性肺炎の予防になるというデータがあり、術前より歯科受診をしておくことが重要です。また、術後の食事再開時にも歯の状態を整えておくことが、誤嚥のリスクなどを予防するためには重要です。
2)術前治療
・術前化学療法
食道がんにおける化学療法の中で特に重要となるのは、術前化学療法です。全国的な大規模研究(JCOG9907)の結果、切除可能なstage II・IIIにおいて、手術ののちに化学療法を行う(術後化学療法)よりも、術前に化学療法を行った後に手術を行った方が治癒率が良好であるという結果が示されたため、現在の我が国での標準治療として位置づけられました。術前化学療法では、手術の前にCF療法を2回(クール)行います。よりよい状態で手術に臨むためには、化学療法の副作用対策が重要になります。そのため、患者さんの状態を見ながら、主治医と相談しながらスケジュールを決めていくことになります。抗がん剤を行う際には点滴の治療のため、基本的には入院が必要となります。
・術前化学放射線療法
切除可能進行癌への術前治療として行う場合の他、周囲臓器(気管、大動脈など)への浸潤が強い進行食道がんなどには、より縮小効果が強いとされる抗がん剤と放射線の併用療法を術前に行う場合があります。抗がん剤は前述したFP療法を行います。放射線は1週間のうち5回照射(例えば月〜金曜日に照射して土・日曜日は休み)することが多いです。術前療法としては20回前後(約40-50Gy)の照射が標準的です。以下に標準的なスケジュールをお示ししますが、施設によって点滴の期間など異なる場合もあるので、担当の医師に確認してください。
抗がん剤治療中は点滴治療となるため前述の通り、入院が必要となります。放射線自体は約30分間程度で1回の治療は終了します。放射線のみの治療期間は外来通院で治療を行うことも可能です。また、がんの状況によっては最大30回程度の放射線照射(約60Gy)をおこなう場合もあります。