更新日:2019年5月27日

10. 手術後の治療経過(術後-退院まで)

施設間により様々な合併症予防対策がとられているため、術後管理は施設によって多少異なってきます。手術を受ける前に、各施設の先生に術後のスケジュールなどを確認することも合併症予防のためには大切です。患者さんが自分から積極的に回復しようと思う気持ち・努力が必要なのです。手術の方法によっても術後の経過がかわりますので担当医に確認しましょう。

1) 手術当日

術直後はICUで過ごします。

・開胸手術では、胸部の切開創が大きいため、術直後は自分で呼吸することが大変であり、 当日は人工呼吸器で呼吸をサポートする施設もあります。

・胸腔鏡手術では、手術終了とともに人工呼吸器を離脱し、自分で呼吸(自発呼吸)ができることが多いです。

痛みを感じた場合は痛み止めの点滴や、硬膜外カテーテル(術直前に背中から入れる痛み止めの細いカテーテル)で痛みを止める処置をします。

2)歩行訓練・呼吸訓練

施設の方針にもよりますが、手術翌日からがんばって歩きましょう。併せて呼吸訓練も必要です。手術中に直接肺をどかしたり、炭酸ガスを胸(胸腔)に注入して肺をどかしたりして食道およびリンパ節を切除しますので、術後に肺に痰がたまり無気肺になりやすい状況となるため、痰を積極的に出す必要があります。呼吸器トレーニング・歩行をすることで肺の奥まで空気が入り込み無気肺(肺が潰れた状態)を改善し、肺炎予防に効果があります。手術前から訓練しておくことが大切な由縁です。痰が多い場合は、気管支鏡で痰の排出をおこなったり、頸から直接気管に痰排出用の細いチューブ(ミニトラック)を留置することもあります。

胸腔鏡手術であれば翌日、ICUを出ることも可能で、歩行も可能です。開胸手術であっても、翌日から歩行訓練している施設もあります。何れにしても、術後早期より訓練をすることが大切です。

2~4日経過すれば、傷の痛みも徐々に軽減するため、トイレ・洗面・廊下歩行等、さらにどんどん動きましょう。退院まで歩行、呼吸訓練は継続されることをお勧めいたします。また、退院後も家に閉じこもることなく、どんどん外に出て運動されることもお勧めいたします。

3)飲水

通常1-6日目に飲水テストを行い、むせ込みがないかのチェックをします。今までと嚥下の仕方が異なり、練習が必要ですので慎重に飲み込みましょう。

4) 食事

5−9日目頃に食事がはじまります。食べていけないものはありません。何でも食べて良いのですが、食べ方に練習が必要です。少量づつ、時間をかけて食べましょう。以前と同じような「早食い」をすることにより誤嚥性肺炎を生じる場合もあるので、注意が必要です。

また、この手術は、逆流防止機構のある食道と胃のつながりの部分を切除してしまいますのでどうしても逆流しやすくなります。逆流防止のために食後2時間は、横になるのは控えましょう。

5)経腸栄養

食道がんの手術では早期に傾向摂取開始困難なことがあり手術中に経腸チューブを入れてくる施設が多いです。通常、術後1-2日目から開始することが多いです。

6)術後の血液検査、レントゲン検査

頻回に行います。これは早期に合併症を確認するために必要です。

退院:

施設により異なりますが、術後9-21日程度で退院できます。

*縫合不全がおこったら?

術後5〜7日より38℃以上の高い熱が出たり、頸部の傷の赤味が強くなり脹らんできた場合は、縫合不全(食道と胃菅を吻合した部分がうまくつながらないこと)が疑われます。縫合不全をおこすと、唾液や食物など飲み込んだものが、つなぎ目の弱いところから外にもれてしまいます。

縫合不全が起こった場合(頸部か胸腔内かつないだ場所によっても異なる)は、傷を一部(約2cm)開いて、中にたまったもの(唾液・食物・膿)を出してあげます。これによって、熱も急激に下がり、傷の赤味もとれます。

再建ルートが、胸骨後ルートであれば、水などを飲んだ場合、この傷より飲んだものが出てきますが、心配はありません。むしろ水を飲んでこの傷を洗ってきれいにしてあげるつもりでいてください。約1-2週前後この状態が続きますが、突然漏れがとまって傷が小さくなり、穴はふさがります。原則として食事は中止とし、水分のみ状況によって摂取可能とします。朝・夕と消毒のかわりに、首の創部をシャワーで洗います。これが一番早く創部を治す方法です。

再建ルートが胸腔内の場合は、食事、水分共に中止とします。胸腔内にチューブを挿入し、もれるものを体外に誘導してあげることもあります。

重症化した場合、縦隔炎(縦隔内の炎症)・肺炎により敗血症(重篤な感染状態)になり、命に関わるケースもあるため慎重に治療を行う必要があります。

*肺炎・無気肺がおこったら?

多くは、軽症で無症状のため胸部X線写真をとって初めて気づくことが多いです。何も治療せずに治癒することが多く、呼吸訓練を頑張って行うことにより予防できると考えます。場合によっては、強制的に肺の中にたまった痰を出してあげる必要があり、この場合は、気管支鏡を頻回(1日の数回)に行う必要があります。痰が出しにくい場合は、吸引用のチューブを頸に入れることもあります。手術前にタバコを吸っていた方は吸ってなかった方と比較し痰が多く、特に呼吸訓練を頑張りましょう。

*乳糜(にゅうび)胸がおこったら?

術後数日たってから、胸部のチューブから排出される浸出液の色が、白っぽく濁ったものとなり、量も1日1リットル以上となる場合があり、乳糜(にゅうび)胸と言われます。胸の中を走行するリンパ液の太い管(胸管)からリンパ液がもれていることを意味します。自然に止まることもありますが、場合によっては、もれを止めるためにレントゲン透視下の処置や手術が必要となります。手術は、開胸・胸腔鏡で漏れている場所を確認し、胸管の元(本幹)をしばる(結紮)ことで終了し、約1-2時間で終わります。そのままにすると、多量リンパ液が体から出ていき低栄養となり、命にもかかわります。

*嗄声(反回神経麻痺)がおこったら?

 手術では、反回神経の周囲のリンパ節を摘出する必要があります。反回神経は約1~2mm径と細いため、手術中にどんなに注意をしても、触っただけでも、ある一定の頻度でダメージを受ける事があります。多くは片側(左)の反回神経麻痺で、術後3-6ヶ月で徐々に回復します。

食事をする時に、完全に肺の入り口がふさがらないため、隙間から水分や食事が気管に入ってむせこむことがあります。それにより誤嚥性肺炎を生じる可能性があるため、注意が必要です。

会話では、隙間から声がもれ、高い声が出にくくなり低音(嗄声)となるため、相手に言葉がわかりづらくなります。特に電話では、非常に聞き取り難い声となり、会話が困難です。

麻痺が改善されない場合でも、徐々に健常な反回神経の動きが良くなり、食事・会話で困ることは少なくなります。ビタミンB12の内服薬にて経過を見ることが多いのですが、長期に改善しない場合は手術を行う場合もあります。

両側の反回神経麻痺が生じた場合は、呼吸・食事をする事も困難となりますので、気管切開(首から直接気管にチューブを入れて呼吸できるようにすること)が必要となります。

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