更新日:2020年7月13日
8.治療
- 治療の種類には、全身治療として薬物治療、局所治療として手術・放射線治療があります。
- 乳癌の多くは全身病と考えるため、薬物治療を施行することは多く、手術治療のみで治癒することは少ないです。
- 薬物治療は、全身的に散布している可能性のある癌を消滅させ、今後再発しないように行うものです。サブタイプ分類(図8.4)によって大まかな治療方法が決まっています。
- 手術治療は、原発巣を除去し、これ以上の癌の進展を阻止することと、癌の特徴を調べることです。
- 放射線治療は、照射局所からの再発を減らすだけでなく、生存率も向上させることがわかってきました。
- これらの治療を、どのように組み合わせていくかは、病期、サブタイプ分類、患者の状態、希望で決まってきます。
- 早期の病期であれば、手術が主体となり、進行した病期であれば、薬物治療が主体となります。
外科治療
- 乳房手術には乳房を部分切除する乳房温存術(図8.1)と乳房を全切除する乳房切除術(図8.2)があります。
- 温存術か切除術かの判断は、腫瘍の広がり、位置、全身状態、患者の希望で決まります。
- 温存術後には、温存した乳房に放射線照射をします。
- 乳房切除術後は男子のような平らな胸になります。
- 乳癌で乳房切除術を実施した場合、以前から自家組織(本人の筋肉や脂肪など)による乳房再建術は保険診療で実施できました。さらに2013年からは人工乳房による乳房再建術も保険診療でできるようになりました(再建術認定施設で実施した場合)。
腋窩郭清術とセンチネルリンパ節生検
- 腋窩郭清術
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- 20年近く前には術前に腋窩リンパ節転移の有無を調べる方法がなかったため、一律に腋窩郭清術を行ってきました。
- 腋窩郭清術とはリンパ節を含む腋窩脂肪組織を一塊として切除することです。これを行うと、上肢の違和感、リンパ浮腫、肩関節の拘縮などの合併症を起こす場合がありました。
- センチネルリンパ節生検
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- 近年では術前検査で腋窩リンパ節転移がないと予想される場合には、センチネルリンパ節生検(図8.3)をまず行うようになりました。
- センチネルリンパ節とは、リンパ管に入った癌細胞が最初に流れ着くリンパ節のことです。乳房のリンパの流れは、腋窩にある1-2個のリンパ節に流れ着きます。
薬物治療
- 乳癌の多くは全身病という観点から、何らかの薬物治療を行う場合が多いです。薬剤の種類によってホルモン剤、抗がん剤、分子標的治療剤の3つに分類されます。使用期間は各々の薬剤で決まっています。癌の進行度とその特徴(サブタイプ分類(図8.4))によって、どの組み合わせで使用するかが決まってきます。
- ホルモン剤
- 乳癌の70-80%は女性ホルモンによって増殖します。従って女性ホルモンの合成や作用を阻害する薬剤です。
- 抗がん剤
- 女性ホルモンに関係なく自己増殖する乳癌や増殖能が強い乳癌には殺細胞効果を示す薬剤を使用します。
- 分子標的治療剤
- 癌細胞の増殖や転移に関連する分子を標的にする薬剤です。
- 使用時期による分類では、術前、術後、再発時に分かれます。
- 術後は再発を予防するために実施します。術前は、腫瘍を縮小させて温存療法を行う目的や使用する薬剤が腫瘍を縮小させるか実際に確認する目的で使用します。
- 再発時は、薬剤の種類や使用方法に明確な基準はありません。患者と医師の間で、効果・副作用など勘案し、いつ、何を使用するか決めていきます。目的は延命治療です。
サブタイプ分類
- 乳癌の薬物治療を行う上での乳癌の特徴を示した分類です。
- 乳癌の切除標本を顕微鏡で見て、分類します。評価項目はホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)、HER2(細胞の増殖に関わる受容体)、Ki67(増殖指数)の3つです。
- 4または5分類し、それぞれのタイプに応じた大まかな治療方法が決まっています。
ホルモン受容体 | HER2 | Ki67 | 治療方法 | |
---|---|---|---|---|
ルミナールA | + | - | 低値 | 内分泌療法 |
ルミナールB | + | - | 高値 | 内分泌+抗がん剤 |
+ | + | 内分泌+(抗がん剤+分子標的治療薬) | ||
トリプルネガティブ | - | - | 抗がん剤 | |
HER2 | - | + | 抗がん剤+分子標的治療薬 |
新たな薬剤
- 抗HER2剤(ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン):
HER2陽性乳癌に対して、分子標的治療剤として長らくトラスツズマブが使用されてきましたが、同じHER2をターゲットとするペルツズマブを併用することによって効果が増強されることがわかってきました。またトラスツズマブに抗がん剤が結合したトラスツズマブエムタンシンも使用されるようになりました。 - CDK4/6阻害剤(パルボシクリブ、アベマシクリブ):
ER陽性HER2陰性再発乳癌に、細胞周期回転を阻害する2つの薬剤が登場しました。 - PARP阻害剤(オラパリブ):
BRCA遺伝子の異常を有し、化学療法を受けたことのあるER陽性HER2陰性の再発乳癌に対してDNAの損傷修復を阻害する薬剤がでました。 - 免疫チェックポイント阻害剤(アテゾリズマブ、ぺムブロリズマブ):
癌細胞による免疫抑制状態を解除するための抗体薬が開発され、種々の癌に効果を発揮しています。この薬剤によって免疫反応が逆に過剰になり、さまざまな副作用を発症するため、十分な管理が必要となります。
がん遺伝子パネル検査
- 標準治療がないか、または標準治療を終了した再発乳癌に対して、一度に100以上の遺伝子の異常の有無を調べる検査です。
- 癌発生や増悪に関連する遺伝子異常があれば、それに対応する効果のある薬剤を検索・検討します。
- 現在2つの検査キット(NCCオンコパネル、Foundation One)が国内で保険承認されています。
放射線治療
- 術後の放射線照射は、照射部位からの局所再発を減らすだけでなく、最近では生存率も向上させることがわかってきました。
- 乳房温存術の場合には、温存乳房に照射をします。
- 乳房切除をしても、腫瘍径が5cm以上か腋窩リンパ節転移が4個以上あれば、乳房切除した胸壁に照射を行います。
- 1回10分ほどで、週5日行い、計25-30回ほど行います。
- 特に脱毛したり、嘔吐したりすることはありません。
- これとは別に、再発部位の痛みをとるためや、出血をとめるために照射を行う場合があります。