(9) 胃がんの化学療法
胃がんの化学療法は、手術後に再発予防として行われる術後補助化学療法と、根治のための手術ができない病期Ⅳに対して行われることがほとんどです。その効果は徐々に向上しています。
再発防止の化学療法の対象になる人とは
再発防止のために手術後に行われる化学療法を、術後補助化学療法といいます。がんが胃の筋層に達していて、かつリンパ節転移のある病理分類の病期ⅡA、ⅡB、ⅢA、ⅢB、ⅢCの人が、術後補助化学療法の対象となります。ただし、病理分類の病期ⅡAのうち、がんが漿膜下層までにとどまり、リンパ節転移がない場合は行われません。なぜなら、根治手術ができれば再発のリスクが非常に低いからです。したがって、病理分類の病期ⅠA,ⅠBの人も術後補助化学療法の対象にはなりません。
術後補助化学療法の目的は、手術後に残る目に見えないがんが増殖して再発するのを防ぐことです。
手術が行えない場合の化学療法とは
すでに遠くの臓器への転移がある病期Ⅳの人や、手術の結果、がんが取りきれずに残ったとき、あるいは再発した場合は、化学療法が治療の主体となります。
がんの治療では、他臓器に転移したがんに対しても、もともとがんが生じた(原発の)臓器に有効な抗がん剤を使います。抗がん剤に対する反応は、原発のがんとほぼ同じと考えられるためです。
ですから、胃がんから転移した肝臓がんや腹膜のがんなどに対しても、胃がんに効果のある抗がん剤が用いられます。この場合の目的は、QOLを保ちながらできるだけ長生きできるようにすることです。
胃がんに効果のある抗がん剤とは
胃がんで用いられる抗がん剤は、おもに4種類です。これらを単独または組み合わせて(併用して)使用します。
術後補助化学療法に用いられるのは、飲み薬のティーエスワン(TS‐1)です。4週間(28日間)飲み続けたあと2週間休む、というパターンを手術後1年目まで続けます。TS‐1は、手術後の再発率を引き下げる効果のある抗がん剤として、用いられています。術後補助化学療法としてTS-1とドセタキセルを組み合わせて投与する方法もあります。
また、すでに転移がある場合や、再発した場合は、TS‐1とシスプラチンを併用する「TS‐1+シスプラチン療法」を実施するのが一般的です。これで効果がみられない場合は、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカンを単独で投与する治療が行われます。
知っておきたい胃がんに用いられるおもな抗がん剤
一般名 | 商品名(例) | ||
---|---|---|---|
注射薬 | 代謝拮抗薬 | フルオロウラシル | 5‐FU |
トポイソメラーゼⅠ阻害薬 | イリノテカン | カンプト、トポテシン | |
白金製剤 | シスプラチン | ランダ、ブリプラチン | |
オキサリプラチン | エルプラット | ||
タキサン系薬剤 | ドセタキセル | タキソテール | |
パクリタキセル | タキソール | ||
ナブパクリタキセル | アブラキサン | ||
免疫チェックポイント阻害薬 | ニボルマブ | オプジーボ | |
経口薬 | フッ化ピリミジン系薬剤 | テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬 | ティーエスワン(TS‐1) |
カペシタビン | ゼローダ | ||
トリフルリジン・チピラシル塩酸塩 | ロンサーフ |
memo胃がんの分子標的薬は?
分子標的薬とは、がん細胞が増殖したり、新しい血管をつくったりするときにはたらく物質に作用して、がんを治療する薬です。
胃がんに使用できる分子標的薬は、実はまだありません。しかし、いくつかの分子標的薬で、臨床試験が進んでいます。