(7) 外科手術(開腹手術、腹腔鏡下手術)
外科手術による胃の切除法は、胃全摘術、幽門側胃切除術、噴門側胃切除術、胃部分切除術に大別されます。リンパ節転移があれば、周辺のリンパ節も切除(郭清)します。
がんができた場所と転移の範囲によって手術法は異なる
早期がんでも粘膜下層にまでがんが及んでいる場合や、未分化型がん、潰瘍を伴うがんなど、リンパ節などへの転移の可能性がある場合は、胃とリンパ節を切除する必要があります。
4種類(胃全摘術、幽門側胃切除術、噴門側胃切除術、胃部分切除術)の手術のうちどれになるかは、がんができた部位、がんの深達度、悪性度、リンパ節などへの転移の有無とその範囲によって決まります。
たとえば、胃の下部や幽門付近にできたがんに対しては、幽門側切除術を行いますが、胃をどのくらい切り取るかは、がんの大きさ、深達度、悪性度などによって異なります。
また、リンパ節転移がある場合は、リンパ節も切除(郭清)しますが、手術の方法(術式)によって、切除するリンパ節の範囲が決まっています。
胃の上部にできたがんや、がんが胃の上部にまで広がっている場合は、基本的に胃を全て切除する胃全摘術が行われます。早期でも胃全摘術が必要になることがあります。
summary胃がんの手術法と再建術①
切除する範囲は病期や悪性度などで決まる
内視鏡的切除が可能なごく初期の胃がん以外では、目に見えなくてもがん細胞が広がっている可能性があります。そのため、病変部周辺を広く切り取り(胃の3分の2から4分の3)、リンパ節もある程度切除する「定型手術」が広く行われてきました。
しかし、これまで蓄積されたデータから、病変部をある程度広く切り取れば、取り残しや再発のリスクが少ないがんもあることがわかってきたのです。そこでいまでは、臨床分類の病期Iの胃癌のうち再発リスクのすくないものに対してはできるだけ胃やリンパ節を残す「縮小手術」が行われます。
逆に、がんが胃を超えて他臓器に続いている場合や、スキルス胃がんなど、再発のリスクが高いがんに対しては、定型手術に合併切除を加えた「拡大手術」が行われます。合併切除とは、胃とともに他臓器を切除することです。その場合は、リンパ節も定型手術より広い範囲を切除します。
縮小手術の中でも増えている幽門保存胃切除術
幽門側胃切除術の縮小手術で、胃の出口である幽門を残すのが「幽門保存胃切除術(PPG:Pylorus-preserving gastrectomy)」です。胃にたまった食べ物がいっぺんに十二指腸に流れ込まないようにしたり、十二指腸液の逆流を防いだりするなど、さまざまな機能をもつ幽門を残すことで、手術後のQOLが大きく向上します。
PPGが行えるのは、がんが粘膜下層までにとどまり、病変の端と幽門が4cm以上離れているなど、いくつかの条件を満たしている場合です。
summary胃がんの手術法と再建術②
切除部位や範囲に応じて行われる「再建術」
「再建術」とは、胃を切除したあとに、食道と十二指腸や小腸(空腸)などをつないで食べ物の通り道をつくることで、胃切除術と同時に行われます。
手術法によって再建の仕方も変わります。また、同じ手術法でも再建法はいくつかあり、どのような再建術を行うかは、手術後の後遺症(胃切除後症候群)ができるだけ少なくなるように考えて選択されます。
とはいえ、どの再建術にも長所と短所があるので、手術の前に担当医の説明をよく聞くと同時に、食習慣など患者さん自身の事情を伝え、よく話し合うとよいでしょう。
close-up
「定型手術」とは
内容 | 対象 |
---|---|
胃を3分の2以上切除し、D2と呼ばれる範囲のリンパ節を郭清する手術 | 臨床分類の病期Ⅰ、ⅡA、ⅡB、Ⅲ (がんが胃から他臓器に続いていないもの) |
「縮小手術」とは
胃の切除範囲とリンパ節の郭清範囲を、定型手術よりも小さくしたもの
内容 | 対象 | |
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胃切除範囲の縮小手術 | 胃の切除範囲が3分の2未満のもの | 内視鏡的切除ではきり切れない臨床分類の病期Ⅰの早期胃がん |
リンパ節郭清範囲の縮小手術 | 定型手術よりも狭い範囲のリンパ節を郭清 (D1、D1+など) |
臨床分類の病期Ⅰの早期胃がん |
「拡大手術」とは
胃の切除範囲とリンパ節の郭清範囲を、定型手術よりも大きくしたもの
内容 | 対象 |
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胃を3分の2以上切除し、D2より広い範囲のリンパ節を切除する。さらに、がんが浸潤している臓器(膵臓、脾臓、大腸、肝臓)も合併切除する。 | 臨床分類の病期ⅣAの胃癌 |