(5) セカンドオピニオンを聞く
セカンドオピニオンは、患者さんが幅広く情報を集められるように、社会的に認められている制度です。しかし、現実にはあまり活用されていません。利用するうえで知っておきたいことや、手順を紹介します。
専門医としての意見を聞くセカンドオピニオン
がんの治療法には、複数の選択肢があります。しかし、自分に適した治療法をどう選んだらよいのか、患者・家族は迷うことが多いものです。
そこで、主治医だけでなく、別の専門医の意見を聞くセカンドオピニオンは、新たな方向性を見つけるという意味でもとても役に立ちます。
ただ、セカンドオピニオンを聞いた医師が診察してくれる、そこで治療ができると誤解している人もいるかもしれません。セカンドオピニオンはあくまでも、患者さんが持参した医療情報や画像などをみて、第三者として、現在受けている診断や治療についての意見を述べたり、情報を伝えたりすることで、診察することはないのです。
セカンドオピニオンを聞いた病院で診察・治療を受けるためには、別の手順が必要です。
セカンドオピニオンのじょうずな聞き方
せっかくのセカンドオピニオンを、より有意義にするために、次のようなことを心得ておくとよいでしょう。
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まず主治医の説明をよく聞き、疑問点も尋ねておきましょう。それをもとにセカンドオピニオンで、どのようなことを聞きたいのか、整理してまとめておきましょう。
漠然と別の専門医の話を聞きたいと思っているだけでは、とりとめのない話になり、無意味なことになりかねません。
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どこで、だれに、セカンドオピニオンを聞くのか、情報を集めて、申し込み先を決めましょう。近年、「セカンドオピニオン外来」を設ける医療施設が増えています。インターネットなどで調べると情報が入手できます。
胃がんの場合、セカンドオピニオンを聞く医師として適しているのは、消化器外科医、消化器内科医などで、がんの種類によって適した医師が異なります。
逆に、セカンドオピニオン医を主治医と同じ専門領域の医師に求めるより、主治医が外科医ならセカンドオピニオンは内科医にと、異なる分野の医師に意見を聞くほうが多くの情報を得られる可能性もあります。
セカンドオピニオン医の選択に迷ったら、相談窓口を活用するのもひとつの方法です。
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主治医に、セカンドオピニオンを求めたいと申し入れ、検査データや画像などの医療情報と紹介状(診療情報提供書)を提供してもらいましょう(有料のところが多い)。
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セカンドオピニオンの申し込み先に予約を入れて、必要書類を持参しましょう。
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セカンドオピニオンを聞いたあと、どこで治療を行うか、家族と話し合って決めましょう。
知っておきたいセカンドオピニオンで困ったときのQ&A
- Q主治医に言い出しにくいけど……
- A 「第1回医療に関する国民意識調査」(日医総研報告書、平成14年度)によると、医師の半数以上はセカンドオピニオンを「快くすすめる」と答え、「賛成しない」という医師はわずか0.3%でした。セカンドオピニオンの意義を認めている医師が多いのです。勇気をもって話してみましょう。
「自分にとって最善の治療法を見つけるために、セカンドオピニオンを聞きたい」という気持ちを率直に伝えれば、理解してくれるはずです。
セカンドオピニオンを聞くためには、紹介状や検査データなどの医療情報が必要になりますから、主治医に内緒で行うのはむずかしいでしょう。
もし、どうしても自分の口からは言い出しにくいという場合は、家族や知人に同席してもらって代わりに伝えてもらうとよいでしょう。
- Qセカンドオピニオンに必要な資料とお金は?
- A 必要な資料は、受け入れ先の医療機関によって異なりますが、基本的に、診断の経緯や治療方針などを記載した「紹介状(診療情報提供書)」と、検査値のデータや画像データが必要です。
これらの情報の提供には費用がかかります。金額は病院ごとに異なるので、事前に確かめておきましょう。
セカンドオピニオンを聞く費用も、医療施設によって異なりますが、「セカンドオピニオン外来」の多くは保険適用がない自費診療で、相談時間30分で1万円から2万円程度です。
- Qセカンドオピニオンのあと、治療先を変えたいときは?
- A セカンドオピニオンを聞くときに、すでに転院を考えている人は少なくありません。もし、セカンドオピニオンを聞いた病院で治療を受けたいと思ったとしても、自動的に治療へと進むわけではありません。
治療を希望しているが受け入れてもらえるかどうか、必ず確認をとりましょう。受け入れが決まったら、現在の主治医に、転院したいということを伝えたうえで、受け入れ先の病院の外来を受診します。
そこで必要に応じた検査を行い、治療の方針や方法を決めて治療を受けるという手順になります。
また、セカンドオピニオンを聞いたところではなく、新たに自分に適した治療法を見つけたいという場合は、病院・医師選びから始めることになります。情報を集めるところから再スタートですが、セカンドオピニオンを聞いた医師に紹介してもらったり、相談窓口を活用したりするとよいでしょう。
その場合も、まずはその病院の外来を受診します。
胃がん治療のセカンドオピニオン
「胃を残せるかどうか」について意見を聞くことが、重要なポイントの1つです。胃全摘術か、一部でも胃を残せるかでは、手術後の生活の質(QOL)が大きく違ってくるからです。
たとえば、最初にかかった病院で胃全摘術をすすめられたとしても、セカンドオピニオンを聞いた病院では、胃の入り口である噴門を残す手術(胃亜全摘術)が可能だといわれるかもしれません。もし胃亜全摘術で治療ができれば、食道への逆流は少なく、食欲や味覚、食事量にも影響することが予想されます。
セカンドオピニオンの医師と、最初の病院の医師の意見が同じということももちろんありますが、セカンドオピニオンで治療の選択肢を広げられる可能性があります。
COLUMNがんの集学的治療、チーム医療とは
複数の治療法を組み合わせた多面的な治療
手術のあとに術後補助化学療法を行うなど、いくつかの治療法を組み合わせた、総合的な治療のことを「集学的治療」といいます。
がんは、手術だけ、あるいは化学療法だけなど、単独の治療法では根治や延命がむずかしいことも多く、とくに進行したがんでは、集学的治療が重要になります。
胃がんの場合は、手術を主療法として、おもに術後補助化学療法が行われます。ほかのがんでは、手術前に化学療法や放射線療法を行い、がんをできるだけ小さくして、完全に切除することを目指したり、手術、化学療法、放射線療法という3種類の治療法を組み合わせたりすることもあります。
チーム医療による集学的治療
集学的治療では、外科手術、内視鏡的切除、化学療法、放射線療法など、それぞれの治療を専門とする医師や、看護師、薬剤師、放射線技師、さらには緩和ケアを専門とする医師や看護師、精神腫瘍医、医療ソーシャルワーカーなどが加わった「チーム医療」が必要になります。
チーム医療は、患者さんの診断結果、年齢、体力、全身の状態などを多角的に検討し、最前の治療をさぐるためのものです。
患者さんを中心にしたチーム医療があってこそ、集学的治療が実現します。
がんの集学的治療では栄養療法も重要
がんの患者さんの体の中では、がんそのものや治療の影響によって炎症が生じ、筋肉がやせて元気がなくなる、食べても太れないなどの症状が起こりやすくなっています。炎症をしずめ、筋肉をつけるためには、適切な栄養療法が欠かせません。とくに胃切除後の患者さんでは、栄養療法が大切です。
栄養サポートチーム(NST)や、その中で重要な役割を果たす管理栄養士やNST専門療法士も、がんの集学的治療になくてはならない存在なのです。