(4) 胃がんの3大治療法と緩和ケア
胃がんの3大治療法は、内視鏡的切除、外科手術(開腹手術、腹腔鏡下手術、化学療法です。これらに加え、緩和ケアも初期から行われます。治療方針は、病期にもとづいて検討されます。
治療の基本は病変部の切除
がんの3大治療法といえば、手術療法、放射線療法、化学療法が一般的ですが、胃がんの場合、日本では放射線療法はほとんど行われません。胃がんには放射線が効きにくいのと、病変部を切除することが胃がんの基本的な治療方針だからです。
胃がんの3大治療法は、「内視鏡的切除」「外科手術(開腹手術、腹腔鏡下手術)」「化学療法」です。内視鏡的切除は、局所だけを取る治療法です。外科手術は、胃の病変部とともに、リンパ節などに転移したがんも切除します。
化学療法は、抗がん剤が血液にのって全身をめぐり、どこにあるかわからない目に見えないがんにも効果がある「全身療法」です。
胃がん治療の基本は切除ですが、再発の予防や、手術が難しい人に対しては、全身療法である化学療法を行います。
進行度(病期)によって治療法が異なる
どの治療法が効果的かは、病期で判断されます。内視鏡的切除は、病期ⅠAで、がんが粘膜内にとどまっている人、病期ⅠAでもがんが粘膜下層まで達している人、病期ⅠB、病期ⅡA・B、病期ⅢA~Cの人は外科手術の対象となります。
化学療法は、がんが胃の表面にまで出ている人、胃のリンパ節に転移がある人に対して、手術後に再発を予防する目的で行われます(術後補助化学療法)。
病期Ⅳや再発の人などで、手術がむずかしい場合は、化学療法が主体となります。
こうした治療方針は、日本胃癌学会が作成する「胃癌治療ガイドライン」によるものです。ただし、ガイドラインは胃がん治療の原則を示したものにすぎません。糖尿病や心臓病など慢性疾患の有無、年齢や全身状態など、それぞれの患者さんの状態に合った治療方針を個別に探っていきます。
内視鏡的切除は局所のみを取る治療法
がんの部分だけを切除し、胃を残せる治療法ですが、胃の粘膜をはぎ取るように切除するだけなので、がんが粘膜下層に達している場合や、未分化型がん、潰瘍を有するがんなどリンパ節転移の可能性がある場合は、対象になりません。
内視鏡的切除では口から内視鏡を挿入し、胃の内部を見ながら、特殊な器具や電気メスを使って粘膜をはぎ取るように病変部を切除します。
胃の機能を残せるので、治療後もそれまでと同じように生活できます。
外科手術(開腹、腹腔鏡下)の種類と特徴
胃がんの外科手術には、大きく次の4種類があります。
- 胃全摘術
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噴門や幽門を含め、胃を全部取る手術です。
胃の機能がすべて失われるため、胃切除後症候群への対策が重要になります。 - 幽門側胃切除術
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胃の出口である幽門側、つまり胃の下のほうを3分の2から5分の4切除します。幽門部周辺や胃の下部にできたがんが対象で、胃がんの手術で最も多く行われる手術です。
幽門を切除してしまうため、ダンピング症候群が起こりやすくなります。
- 噴門側胃切除術
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胃の入り口である噴門側、つまり胃の上のほうを3分の1から4分の1程度切除します。噴門部周辺や胃の上部にできたがんに対して行われます。
胃の上部にがんができることは少ないこともあり、まれな手術です。
噴門を切除すると、逆流性食道炎が起こりやすくなります。
- 胃部分切除術
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●幽門保存胃切除(PPG。)
幽門側胃切除術で、幽門部の一部を残す手術です。胃の出口である幽門を残すことで、十二指腸への食べ物の移動が健康な状態に近く、ダンピング症候群が起こりにくいことがメリットです。
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●胃分節切除術
がんのある部分から2~3cm余裕をとって、胃の中央部分を切り取ります。噴門と幽門が残せることと、残胃の容量が大きいことから、胃切除後症候群が起こりにくい手術です。
summary 胃切除術の切除部分
胃がんの化学療法
胃がんの化学療法に使われる薬剤は、S-1(商品名・ティーエスワン)、オキサリプラチン(同・エルプラット)、シスプラチン(同・ブリプラチン、ランダ)、パクリタキセル(同・タキソール)、ドセタキセル(同・タキソテール)、イリノテカン(同・トポテシン、カンプト)が主体です。その他、分子標的薬としてラムシルマブ(同・サイラムザ)、免疫チェックポイント阻害薬としてニボルマブ(同・オプジーボ)といった新たな薬も使えるようになってきました。
ティーエスワン(TS-1®)は飲む抗がん剤で、日本における胃がん化学療法の中心的な存在です。再発予防を目的に行う術後補助化学療法の場合は単独もしくはドセタキセルとの組み合わせで使用で、転移がある場合や再発の場合は、シスプラチンと併用されるのが一般的です。TS-1とシスプラチンが効かなくなったときは、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカンを使用します。
告知のときから始まる緩和ケア
がんと告知されたときのショックや不安や苦しみ……これらの対するケアも、治療と同等に大切です。
緩和ケアというと、末期のものではなく、告知のときから始まるのが本来の姿なのです。
がんそのものに対する治療と緩和ケアは、がん治療の両輪です。患者さんや家族が必要とするときに、いつでもケアの手が差しのべられる環境を整えておくことが求められます。
そこで、全国の「がん診療連携拠点病院」には「緩和ケアチーム」「相談支援センター」が配置されるようになりました。
「相談支援センター」は、地域に住む人ならその病院に入院・通院していなくても利用できます。小さな相談であっても、積極的に利用しましょう。