4.治療計画に影響を与える肝機能分類
肝臓は余力(予備能)の大きい臓器で、日常生活において肝機能が正常の人は最大能力の30~40%しか使っていません。肝硬変や慢性肝炎では、この肝臓の最大能力自体が低下しており、余力のない肝予備能の低下した状態です。肝臓癌の治療法の決定にはステージングの他にこの肝予備能が重要な要素となります。但し、患者さんごとに肝機能の値を正確に算出するのは容易ではありません。そこで、実際の治療においては、肝機能をA、B、Cの3段階に分類する、「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類」が使用されています。
各項目のポイントを加算してその合計点で分類する
Child-Pugh A;5~6点、Child-Pugh B;7~9点、Child-Pugh C;10~15点
簡単に言えば、肝予備能が最も高く、安全に肝切除が行えるのがA。肝切除に注意を要する、つまり、少ししか切除できないのがB。肝切除は行えず肝移植を考えなければならないのがC、となります。
肝臓は体内に入った異物を解毒する役割を果たしています。その能力が落ちていると異物が血中に留まる時間が長くなります。そこで、異物と同じように肝臓で処理されるインドシアニングリーン(ICG)という緑の色素を患者さんに注射し、一定の時間ごとに採血して血中にICGがどれくらい残っているかを調べて肝臓の機能を診断しようというのがICG検査です。ICGは静脈に注射すると肝臓(肝細胞)に取り込まれて胆汁に排泄されます。ICGを注射してから15分後に血中に残っているICGの割合を「ICG15分停滞率(ICGR15)」と呼びます。肝機能が低下すると、肝臓がICGを取り込む能力が低下するのでICGR15の値は大きくなります。正常の肝機能の場合は、15分で注射した量の90%以上が肝臓に取り込まれ、ICGR15は10%未満になります。一方、ICGR15が40%の人はICGを15分で60%しか取り込むことができない肝機能であるということになります。この検査は1970年代からわが国で広く行われており、ICGR15の値ごとに安全に切除できる肝臓の割合がほぼ分かっています。具体的にはICGR15が10%以下の正常値であれば、肝臓を約3分の2(最大で70%)まで切除することができます。また、ICGR15が10~20%では3分の1まで、20~30%では6分の1まで肝臓を切除することができる、というように安全基準が示されています。このように、ICG検査を行うことで、どこまで切除が可能かという安全限界を知ることができるのです。Child-Pugh分類で最も状態がいいグループAでも、ICGR15が40%程度と不良な患者さんが含まれていることが分かっています。そのため、チャイルド・ピュー分類に加えてICG検査を行うことが非常に重要です。わが国の肝切除の死亡率が世界的に見て低い理由の1つに、ICG検査を活用したきめ細かな診断があると考えられています。