5.治療
治療の原則
治療の原則は外科治療(手術)によってがんを摘出することです。甲状腺がんのタイプにもよりますが、手術ではがんだけを摘出するのではなく、周囲の正常な甲状腺組織やリンパ節も一緒に切除します。
甲状腺切除のバリエーション
甲状腺を全て摘出する全摘術と、峡部(甲状腺の真ん中の部分)を含む、左右いずれかの葉峡部切除術の2種類があり、甲状腺がんのタイプや進行度に合わせて、いずれかを選択します。
リンパ節郭清の決定
リンパ節転移が稀な濾胞がんを除く、すべての甲状腺がんで、甲状腺切除に加えてリンパ節を一緒に切除するリンパ節郭清術を行います。甲状腺がんのタイプや進行度によってリンパ節郭清を行う範囲が決められています。
放射線治療
①アイソトープ治療(内照射療法、放射性ヨウ素内用療法)
前に述べた通り、濾胞細胞は甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素を吸収する性質を持っています。そして濾胞細胞から発生する乳頭がんと濾胞がんにも同様の性質が残っています。この性質を利用して、弱い放射線(β波)を発する放射性ヨウ素カプセルを服用すると、がん化した濾胞細胞や、それが血液を介して飛び火した遠隔転移巣に放射性ヨウ素が集まり、腫瘍が内部から破壊されます。
ヨウ素は甲状腺以外の組織にはほとんど吸収されませんし、β波の飛散距離は短いので、患部以外の臓器を傷つけることはありません。ただし、厳しい法規制をクリアした設備を持つ病院でしか実施できません。
②放射線外照射療法
アイソトープ治療が放射性ヨウ素を服用して、体の内側から照射するのに対して、体外から放射線を照射する治療が外照射療法です。通常のX線照射装置の10~1000倍もの強さで放射線を照射できるリニアック放射線装置などを用いて、対外から放射線を照射してがん細胞を焼くという治療です。
ただし、甲状腺がんの大部分を占める乳頭がんや濾胞がんは放射線に対する感受性が高くないので、手術やアイソトープ治療では治療できない局所再発や遠隔転移再発に対してのみ行われます。骨転移に対しては、痛みを軽くするという効果もあります。
一方で、未分化がんは比較的放射線の感受性が高く、さらに手術単独での治癒が期待しにくいことから、外科治療(手術)の後の再発予防として放射線外照射を行うことが一般的です。
抗がん剤等
一般に抗がん剤とは、細胞障害作用のある物質や化合物、抗生物質などのうち、正常細胞よりもがん細胞に対する傷害作用が強いもののことです。これまで様々な抗がん剤がいろいろながんに投与されており、がんの種類ごとに効果のある薬が決まっています。
甲状腺がんの大半を占める乳頭がん、濾胞がん、髄様がんに対して有効性が明らかな抗がん剤はなく、これらのがんでは原則として抗がん剤治療を行うことはありません。
一方で、手術や放射線治療だけでは十分な治療効果を得にくい未分化がんには何らかの抗がん剤治療が必要になります。これまでに試されてきた様々な抗がん剤では目立った効果は得られませんでしたが、タキソール(わが国では保険適応外)に一定の治療効果があることが報告されています。
分子標的治療薬
従来の抗がん剤はがん細胞のみならず正常細胞に対しても、一定の障害作用を及ぼす特徴がありました。そこで、がんの増殖や転移の過程で必要となる分子だけをターゲットとして攻撃するように開発されたのが分子標的治療薬です。手術や放射線治療では対応できない甲状腺がんに対して投与されます。高い治療効果が期待できる代わりに、重篤な副作用も多く、経験の豊富な施設で専門医による投与が望まれます。