日本臨床外科学会雑誌 第86巻3号 和文抄録

 

臨床経験

乳腺solid papillary carcinoma13例の臨床病理

総合病院三原赤十字病院外科

小林 達則 他

 Solid papillary carcinoma(SPC)は,稀な乳房の乳頭状腫瘍で,しばしば浸潤を伴う.当院で経験したSPC13例の臨床病理学的検討を行った.平均年齢70.6歳.主訴は乳頭分泌5例,腫瘤6例,検診異常2例.多くのSPCは浸潤所見が乏しい画像所見を呈した.全例に乳房手術が施行され,12例にセンチネルリンパ節生検が施行された.非浸潤癌 5例,浸潤癌 8 例で,エストロゲン受容体は全病変が強陽性,プロゲステロン受容体(PR)は11例が強陽性,2病変が陰性であった.HER2は全例で過剰発現がなかった.核グレード分類やKi67が低い症例が多く,全例で腋窩リンパ節転移や遠隔転移はなかった.PR陰性,Ki67高値の1例に肺転移再発を認めた.SPCは個々の症例で浸潤部の正確な評価が治療戦略の決定や予後の判定に重要である.

HER2陽性乳癌に対するペルツズマブ併用術前化学療法の治療成績

日本赤十字社医療センター乳腺外科

清水 淑子 他

 HER2陽性乳癌に対する術前化学療法におけるペルツズマブの併用は,NeoSphere試験で病理学的完全奏効(pCR)率の改善を認めたことから,2018年10月に本邦でも承認された.今回,当院にて2012年以降に術前化学療法を施行したHER2陽性乳癌44例を対象に,ペルツズマブ併用の治療効果および安全性について検討を行った.結果は,pCR率がペルツズマブ併用なしで25.0%,ペルツズマブ併用ありで55.0%となり,ペルツズマブの上乗せ効果が示された(p=0.028).ペルツズマブ併用例における副作用の多くはGrade 2以下であり,忍容性は良好だった.HER2陽性乳癌に対するペルツズマブ併用術前化学療法は有用で,安全に施行できるものと考えられた.

酸化セルロースシートを用いた若年者自然気胸術後再発の予防効果

神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器外科

三品 善之 他

 緒言:近年,自然気胸に対する術後再発予防目的に,酸化セルロース(oxidized regenerated cellulose:ORC)シートやポリグリコール酸(polyglycolic acid:PGA)シートを用いた肺嚢胞切除断端被覆がなされている.ORCシートには癒着をきたしにくい特徴があり,当院では若年者症例に対して積極的に用いていた.ORCシートによる術後再発予防効果について,自験例を基に報告する.対象と方法:2011年~2022年の過去12年間に当センターにて経験した25歳以下の自然気胸に対する初回手術症例263例の内,肺嚢胞部分切除後の断端をORCシート単独で被覆補強した216例における術後再発率に関して,後方視的に検討した.結果:対象症例216例の内,40例(18.5%)で術後再発を認めた.患者の年代別に術後再発率をみると10代が30/123例(24.4%),20代は10/93例(10.8%)であった.結語:ORCシートによる断端被覆は,一定の割合で術後再発を認めるため,推奨し難く,適応外使用の厳格化に伴い気胸再発予防目的の使用を見直す時期と考えられた.

若年自然気胸手術での胸膜補強時にフィブリン糊を省略した症例の術後成績

松江市立病院呼吸器外科

荒木 邦夫 他

 目的:若年自然気胸手術での胸膜補強時にフィブリン糊使用を省略する際のわれわれの選択基準を示し,その治療成績を表すことで省略の適否を検証する.対象と方法:2017-2022年に行った29歳以下の自然気胸手術43側(男性37側,女性6側)を対象とし,ブラの範囲が肺尖2cm四方内に限局している症例にはブラ切除縁の胸膜補強にフィブリン糊は用いず被覆材のみとする基準を設定した.このフィブリン糊省略例の気胸再発率を示すとともに,再発した症例の再発原因を考察した.結果:上記で示した選択基準の下23側の症例でフィブリン糊を省略した結果,その術後気胸再発(率)は1側(4.3%)であった.再発した症例の保存手術動画を見直したところ,ブラ領域が設定した選択基準よりも実際はやや広いことが判明した.結論:若年者自然気胸手術では症例に応じてフィブリン糊省略が許容されうると考えるが,その際はブラが限局しているかどうか術中の見極めが重要である.

Twin U-stitch methodによる膵胃吻合を用いた腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術

国家公務員共済組合連合会虎の門病院消化器外科

井上 翔太 他

 緒言:当院は本邦に先駆けて膵頭十二指腸切除後の膵消化管再建として膵胃吻合を施行しており,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術の際もtwin U-stitch methodによる腹腔鏡下膵胃吻合再建を導入している.方法:2021年10月から2023年5月までのtwin U-stitch methodを用いた完全腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術導入後の10症例を後ろ向きに検討した.患者背景,手術成績,術後経過・合併症を検討した.結果:年齢56歳(38-72歳),男性5例,BMI 20.1(15.9-29.6)であった.対象疾患は悪性3例,境界悪性7例であった.手術時間436分(361-570分),出血量100ml(50-650ml)であった.Soft pancreas症例は6例で膵胃吻合に要した時間は55分(45-90分)であった.術後ISGPS Grade B以上の膵液漏は2例認めた.考察・結論:腹腔鏡下膵胃吻合を用いた完全腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術の成績は良好であった.Twin U-stitch methodは簡便な膵胃吻合法であり,腹腔鏡下手術においては特に有用であると考えられた.

症例

乳癌との鑑別に苦慮した男性肉芽腫性乳腺炎の1例

松江赤十字病院乳腺外科

大谷 麻 他

 症例は48歳,男性.疼痛を伴う左乳頭下腫瘤を主訴に当院を受診した.画像所見からは乳癌が疑われたが,針生検を施行し肉芽腫性乳腺炎と診断した.針生検により膿汁が排出され,症状は改善し経過観察していた.しかし,10カ月後に左乳頭部に発赤,腫脹,疼痛が再燃したため,再度受診した.切開排膿を行い,症状は速やかに消失した.肉芽腫性乳腺炎は乳腺良性疾患の一つで,主に女性にみられ,比較的若年者に多いとされるが,男性の報告は少ない.画像所見は乳癌と類似しており,鑑別が困難なこともある.今回,男性患者において肉芽腫性乳腺炎と診断した稀な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

異時性両側乳癌を発症したBloom症候群の1例

恵寿総合病院外科

高井 優輝 他

 症例は25歳,女性.Bloom症候群のため当院小児科に通院していた.左乳房腫瘤を自覚し20XX年5月に当科を受診し,左乳癌(HER2 type)の診断となった.Bloom症候群では放射線や抗癌剤による二次発癌のリスクが高いため,手術は左乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行し,術後療法はトラスツズマブのみとした.その後,当科で経過観察中であったが,手術から3年経過後に乳房超音波・マンモグラフィ検査で右乳癌が疑われ,精査の結果,右乳癌(TN type)の診断となり右乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した.今回も術後療法は行わず,経過観察の方針とした.現在,術後X年が経過し無再発生存中である.Bloom症候群は非常に稀な疾患であり,異時性両側乳癌の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

切除可能であった乳腺悪性葉状腫瘍膵転移の1例

松山市民病院乳腺外科

友松 宗史 他

 症例は49歳,女性.右乳房腫瘤を主訴に当院を受診し,針生検で悪性所見が認められなかったため,経過観察となった.初診から8年後,腫瘍が急速に増大したため腫瘍切除術を行ったところ,病理診断で乳腺悪性葉状腫瘍と判明した.追加切除を行ったが断端は陽性だった.さらなる追加切除は患者が拒否したため,3カ月毎に画像検査を実施した.腫瘍切除から2年経過後,腹部CTで膵体尾部に腫瘤性病変が認められ,EUS-FNAにより乳腺悪性葉状腫瘍の膵転移と診断した.左副腎への浸潤および腫瘍周囲リンパ節の腫大が見られたものの,遠隔転移は認めず切除可能と判断し,根治切除術を施行した.膵体尾部切除から2年9カ月が経過しているが,再発は認められていない.遠隔転移を伴う乳腺悪性葉状腫瘍は進行が急速で,確立された有効な治療法がないため予後は極めて不良である.しかし,自験例のように外科的切除が可能であれば,長期的な予後が期待できることが示唆された.

Conversion手術を行ったVirchowおよび傍大動脈リンパ節転移陽性胃癌の1例

PL病院外科

佐竹 應登 他

 症例は73歳,男性.心窩部違和感,体重減少を主訴に受診.内視鏡検査で胃噴門部から前庭部に4型腫瘍を認めた.生検にて低分化腺癌,HER2陰性,CPS≧5であった.CTで所属リンパ節のほか,傍大動脈リンパ節(No.16a2/b1),Virchowリンパ節に転移を認め,cT4aN2M1(LYM),cStageⅣBと診断し,capeOX+nivolumab療法を開始した.10コース後にはいずれのリンパ節腫大も消失しR0手術が可能と考えられたが,術後には補助化学療法の完遂が困難となる可能性を考慮して23コース施行後に胃全摘術+脾摘術,D2+No.10郭清を施行した.R0を達成し,病理学的にpCR,Grade3であった.術後補助化学療法は施行しなかった.術後1年目に多発骨転移を認め,化学療法中である.
 Conversion surgeryには症例選択,手術時期,郭清範囲,補助化学療法など解決すべき課題がある.

ICG蛍光法を用いて腸管を温存した虚血性腸炎の1例

大阪医科薬科大学一般・消化器外科

北田 和也 他

 症例は88歳の男性.腹痛を主訴に前医に救急搬送となり,腹部CTで下行結腸の壁肥厚と周囲脂肪織濃度の上昇を認め,虚血性腸炎の診断となった.入院後に腹痛の増悪と下血が出現し,造影CTにて横行結腸からS状結腸に造影効果の低下を認め,壊死型虚血性腸炎の疑いで当院に紹介となった.当院来院時,腹部は板状硬であり血中乳酸値の上昇を認めたため,緊急手術を行った.腹腔鏡で観察すると,結腸は浮腫状であったが漿膜面に壊死を疑う所見は認めなかった.Indocyanine green(以下,ICGと略記)蛍光法では腸管の血流が保たれており,腸切除は不要と判断した.術後経過は問題なく10日目に退院となった.壊死型虚血性腸炎は緊急手術の適応であるが,術前診断が難しく手術の判断に苦慮する症例は多い.腹腔鏡下ICG蛍光法による腸管血流の評価は最小限の侵襲で腸切除の要否を判断でき有用であったため,文献的考察を加えて報告する.

横行結腸癌術後に生じた吻合部肛門側壊死型虚血性腸炎の1例

中部徳洲会病院外科

村上 優太 他

 症例は75歳,男性.横行結腸脾弯曲部癌による腫瘍閉塞に対し,大腸ステント留置後にロボット支援下左結腸切除術を施行した.下行結腸は固定不良で,persistent descending mesocolon(PDM)であった.腫瘍は脾弯曲部にあり,副中結腸動静脈支配であると判断した.ICGで腸管血流良好を確認して腸管切離しoverlap吻合で再建した.術後5カ月目に腹痛,下痢を主訴に受診.腹部CTで吻合部より肛門側腸管に全周性浮腫性壁肥厚を認め,虚血性腸炎と診断した.絶食補液で保存的に加療したが,2カ月後の腹部CTで虚血性腸炎の増悪を認め,開腹Hartmann手術を施行した.病理組織学的診断は肛門側の腸管壁肥厚部全層の線維化,粘膜から粘膜下層の壊疽を認めた.全層の静脈内に血液鬱滞と微小血管の増生が見られた.自験例では下腸間膜静脈を切離したことで静脈鬱滞が惹起され,腸管血流の障害をきたしたと考えられた.

SAMによる腹腔内出血をきたし緊急手術を行った下行結腸癌の1例

出水総合医療センター外科

松本 嵩史 他

 症例は68歳,男性.嘔気と下腹部痛を主訴に当院消化器内科を受診した.下部消化管内視鏡検査にて閉塞性下行結腸癌を認め,bridge to surgery(BTS)としての大腸ステント留置は困難であったため,人工肛門造設目的に同日紹介となった.夜間に下腹部痛の増悪とショックバイタルを認め,造影CTにて中結腸動脈の仮性動脈瘤破裂による腹腔内出血の診断にて緊急手術を行った.腹腔内および横行結腸間膜内に大量の血腫を認め,横行結腸部分切除を施行した.一期的な下行結腸癌の切除を検討したが,脾浸潤・腹膜播種を疑う病変を認め,横行結腸での双孔式人工肛門造設術のみ施行した.病理診断では腸間膜の中型動脈性血管の血管壁に一部欠損と平滑筋の空胞変性を認め,segmental arterial mediolysis(SAM)と診断した.消化器癌に合併したSAMによる腹腔内出血は稀な疾患であり,文献的考察を加えて報告する.

経肛門的小腸脱出を伴う特発性直腸穿孔の1例

仙台厚生病院消化器外科

菅原 大貴 他

 症例は86歳,女性.1年前より直腸脱を繰り返しており,自主還納していた.排便時に肛門から小腸の脱出を認め,当院へ救急搬送となった.腹膜刺激症状は認めなかったが,肛門から暗赤色調の小腸が約150cm脱出していた.CTにて直腸前壁に穿孔部を認め,同部位より小腸の脱出を認めた.経肛門的小腸脱出を伴う直腸穿孔と診断し,脱出した小腸を用手的に直腸内に還納後,緊急手術を行った.直腸S状部前壁に20mm大の穿孔部を認め,同部位より小腸が直腸内に脱出していた.腹腔内に明らかな汚染はなく,脱出小腸には壊死所見は認めず温存可能であった.手術はHartmann手術を施行した.術後経過は良好であり,第23病日に軽快退院した.経肛門的小腸脱出を伴う直腸穿孔は骨盤臓器脱を繰り返す高齢女性にみられる稀な疾患であるが,その予後は比較的良好と考えられる.今回われわれは,経肛門的小腸脱出を伴う特発性直腸穿孔という稀な大腸穿孔を経験したため報告する.

TAMISにより局所切除を行った下部直腸GISTの2例

日本赤十字社和歌山医療センター消化器外科

寺脇 平真 他

 直腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)は稀な疾患で,消化管全体のGISTのうち5%とされている.切除可能な限局性GISTに対する治療の第一選択は消化管の局所切除であるが,直腸GISTで課題となるのが肛門機能の温存である.直腸GISTの術式は開腹または腹腔鏡下の拡大手術や直視下経肛門的切除が主流であった.しかし,前者は肛門機能障害や排尿障害の合併症が多く,後者は視野確保が難しく肛門縁から近い病変以外に適応できないという欠点があった.2010年にAtallahらにより単孔式腹腔鏡手術を応用した多施設で導入可能なtransanal minimally invasive surgery(TAMIS)が報告され,局所切除の適応が拡大した.
 下部直腸GISTの2例に対してTAMISが根治性と臓器機能温存に優れた術式であったため報告する.

遠位胆管原発血管肉腫の1例

筑波大学消化器外科

山口 志歩 他

 症例は67歳,男性.上腹部痛と貧血を主訴に前医を受診し,胆嚢炎による胆道出血と診断された.出血コントロール目的にinterventional radiology(以下IVR)と胆嚢亜全摘および胆管内Tチューブ留置が施行された.しかしながら,その後も止血が得られず,初回治療から2カ月半後に当院を紹介受診した.当院での精査の結果,遺残胆嚢からの出血および総胆管内血腫と診断した.再度IVRを施行するも効果は得られず,遺残胆嚢摘出を施行した.その後も出血が持続し,肝外胆管切除を施行した.最終的な病理診断結果は,遠位胆管原発の血管肉腫であった.胆嚢原発の血管肉腫の症例報告は散見されるが,遠位胆管原発血管肉腫の報告は稀であり,ここに治療経過と考察を加え報告する.

空腸異所性膵に発生した粘液性嚢胞腺腫の1例

札幌外科記念病院外科

大島 秀紀 他

 症例は52歳,女性.下血,貧血を主訴に入院となった.入院時検査で,Hb 6.6g/dl,血清鉄15μg/dlと高度の貧血,鉄欠乏を認めたが,その他の生化学検査および腫瘍マーカーに異常所見は認めなかった.腹部CTでTreitz靱帯よりやや肛門側空腸に35mmの嚢胞性病変を認め,FDG PET/CTで同病変にSUVmax=3.24のFDG集積を認めた.以上より,粘膜下腫瘍として診断的治療として腹腔鏡下手術とした.手術所見では,Treitz靱帯近くの空腸に多房性の嚢胞性腫瘍を認め,空腸部分切除により腫瘍を摘出した.病理組織検査結果では,空腸粘膜下にHeinlichⅡ型に相当する異所性膵に卵巣様間質を有する粘液性嚢胞腺腫を認めた.

術前に診断し腹腔鏡下に修復した鼠径部interparietal herniaの1例

馬場記念病院外科

松岡 浩平 他

 症例は86歳,男性.10年前より右鼠径部に立位にて出現する手拳大の膨隆を認めていた.尿閉に対し当院泌尿器科で経過観察中に右鼠径ヘルニアを指摘され,精査加療目的に当科に紹介となった.腹部CTでは右鼠径部にヘルニア門を認め,盲腸と回腸末端を内容物とするヘルニア嚢が鼠径管方向と外腹斜筋腹側を頭側方向に進展していた.ヘルニア嚢の形態から鼠径部interparietal herniaと診断し,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を施行した.手術所見として,右鼠径部に3cm大のヘルニア門を認め,ヘルニア嚢内に盲腸が迷入していた.ヘルニア嚢は内鼠径輪から鼠径管方向と頭側方向の2方向へ進展していた.術後は合併症なく,術翌日に退院となった.術後3カ月が経過した現在,ヘルニア再発は認めていない.今回われわれは,術前に診断し腹腔鏡下に修復しえた鼠径部interparietal herniaの1例を経験したので報告する.

待機的に大腿ヘルニア修復術を行った虫垂炎併発de Garengeot herniaの1例

中東遠総合医療センター外科

村田 結衣 他

 症例は86歳の男性で,既往にコントロール不良の喘息があった.喘息発作で当院を受診し,吸入薬で発作が消失した後,右鼠径部膨隆と心窩部痛を自覚した.腹部CTにて右大腿ヘルニアに虫垂の嵌頓を認めた(de Garengeot hernia).軽症の虫垂炎を認め,抗菌薬による保存的治療を先行した.大腿ヘルニアは容易に再発したため,虫垂炎の治癒後に,脊椎麻酔下で鼠径部切開法によるヘルニア修復術を施行した.重度の混合性換気障害があり耐術能が不良であったため,虫垂切除は行わなかった.現在に至るまで,虫垂炎の再燃は認めていない.自験例のように軽症の虫垂炎の場合,大腿ヘルニア嵌頓に伴う物理的な虫垂内腔の閉塞が解除されれば保存的治療が奏効し,必ずしも虫垂切除を必要としない可能性が示唆された.虫垂炎の重症度,保存的治療の成否を考慮し,当院におけるde Garengeot herniaの治療方針をまとめた.

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