日本臨床外科学会雑誌 第85巻12号 和文抄録

 

臨床経験

小児・若年者甲状腺癌の12例

土谷総合病院外科

川﨑 由香里 他

 当科で初回甲状腺切除術を施行した小児・若年者甲状腺癌12症例について臨床的検討を行った.年齢は8歳~19歳,性別は男性4例,女性8例,腫瘍の長径は0.6~10cm(中央値1.8cm)であった.全例に対して片葉切除とリンパ節郭清を施行した.組織型は高分化型乳頭癌9例,濾胞癌3例であった.リンパ節転移を有した症例は10例で,乳頭癌全例の9例と濾胞癌1例であった.そのうち,乳頭癌4例,濾胞癌1例に術後リンパ節転移再発をきたし,再手術を施行した.乳頭癌4例は再手術後27~96カ月で全例無再発経過観察中であるが,濾胞癌症例は再手術後に再度リンパ節転移再発をきたし,再々手術を施行し,厳重に経過観察中である.小児・若年者の甲状腺癌は,早期からリンパ節転移や遠隔転移をきたしやすいにもかかわらず一般的に予後は良好である.当科では,低危険度群の小児・若年者甲状腺癌症例に対して,片葉切除を基本とし,長期にわたる経過観察を行っていくことが重要であると考えている.

新型コロナウイルス感染症の当院消化器疾患診療への影響

済生会兵庫県病院外科

岡本 柊志 他

 目的:新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によりわれわれの日常生活は変化し,日々の診療にも影響を与えた.新型コロナウイルス感染症の流行が当院の消化器疾患診療に与えた影響について検討を行った.方法:新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年を基準とし前後合計6年間に当院で診療した悪性疾患(胃癌・大腸癌),良性疾患(鼠径ヘルニア(大腿ヘルニアを含む)),緊急手術症例を対象とした.結果:胃癌については検診異常を契機に診断された症例数が流行後群で有意に減少した(P=0.04).鼠径ヘルニアに関しては流行後群で当院に直接来院した症例数が有意に減少した(P<0.01).また,流行後群で有意に片側症例が減少し,両側症例が増加した(P=0.02).その他に関しては2群間で有意な差はなかった.結論:新型コロナウイルス感染症の流行は悪性疾患・良性疾患ともに受診契機や病状進行などに影響を及ぼしていた.

症例

右乳房乳頭乳輪部に発生したBowen病の1例

新潟大学地域医療教育センター魚沼基幹病院外科

角南 栄二 他

 症例は76歳の女性で,2022年2月頃より右乳頭部が少しずつ赤くなり,発赤部が徐々に増大し2023年2月に当科に紹介となった.右乳頭乳輪に限局した発赤びらんを認め,CTでは右乳頭乳輪の腫大を認め,同部位は良好に造影された.しかし,腫瘍は指摘されず遠隔転移も認められなかった.右乳輪皮膚生検を施行したところ,非浸潤性扁平上皮癌を認めた.Paget細胞を認めなかったためBowen病を強く示唆する所見と考えられた.手術適応と考え,乳輪外縁より1cm以上の距離をとった横向きで紡錘形の皮切を加え,右乳頭乳輪切除術を施行した.皮膚は一次的に閉鎖縫合した.切除標本の病理組織診断は,20×20mm大で右乳輪・表皮部分ほぼ全体を占める非浸潤性扁平上皮癌を認めた.p16過剰発現を認め,ヒトパピローマウイルス感染が示唆された.術後経過良好であった.乳頭乳輪部発生Bowen病という稀な1例を経験し,文献的考察を含めて報告する.

83歳男性に発症した進行副乳癌の1例

鳥取大学医学部呼吸器・乳腺内分泌外科学分野

大島 祐貴 他

 症例は83歳,男性.右腋窩からの浸出液を契機に当院皮膚科を受診,右腋窩に自壊腫瘤を認めた.生検にてアポクリン癌,ER陰性,PgR陰性,HER2 2+,AR陽性,GCDFP-15陽性の診断となり,副乳癌の疑いで当科に紹介となった.全身精査で右腋窩リンパ節転移,右第5肋骨転移,第4胸椎転移を認めた.局所制御目的に腫瘍切除および右腋窩リンパ節郭清を施行した.病理組織学的には明瞭な核小体と弱好酸性顆粒状細胞質を有する異型細胞が塊状,小胞巣状ないし索状増殖を示しており,腫瘍内に乳腺組織を認めた.ER陰性,PgR陰性,HER2 2+,GATA3陽性であった.以上の所見より,右副乳癌と診断した.高齢,また多数の既往疾患を有する患者背景を鑑み術後の全身療法は行わず,局所療法として放射線照射を施行した.男性副乳癌に関する過去の報告は極めて少なく,非常に稀な1例であったと考えられる.文献的考察を交えて報告する.

10年生存が得られている乳腺原発腺様嚢胞癌・肺転移の1例

秋田大学医学部乳腺・内分泌外科

山口 歩子 他

 乳腺原発腺様嚢胞癌は全乳癌の0.1%程度とされ,リンパ節転移や遠隔転移は非常に稀な組織型である.極めて予後良好とされながら,転移・再発例の報告も散見される.今回,術後5年で肺転移を切除,術後10年で新たな肺結節が出現するも,経過観察のみで長期生存が得られている乳腺原発腺様嚢胞癌の1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は69歳,女性.右乳房腫瘤を主訴に前医を受診.精査の結果,右乳癌(腺様嚢胞癌),cT2N0M0 cStageⅡA,トリプルネガティブと診断した.乳房全切除術+腋窩リンパ節郭清(levelⅠ)ののち,術後補助化学療法を行った.術後5年で右肺上葉に結節が出現し,当院呼吸器外科を紹介受診.診断と治療を兼ね肺区域切除を施行,乳腺腺様嚢胞癌・肺転移と診断された.当科で無治療経過観察中,術後10年に新規肺結節が出現したが,経過観察のみで増大なく,他臓器転移も認めていない.

偽性肝硬変を呈した乳癌胃転移の1例

飯塚市立病院外科・乳腺外科

良永 康雄 他

 症例は64歳,女性.左乳癌に対して左乳房切除と腋窩郭清を施行した.術後診断はT3N1M0 pStageⅢA,ホルモン受容体陽性,HER2陽性であった.術後化学療法と抗HER2療法を施行したが,抗HER2療法中に呼吸器症状が出現し中止した.同時に多発骨転移を認め,内分泌療法を継続した.術後3年目,上腹部不快感の訴えが出現した.CTで多発肝腫瘍の出現と,上部消化管内視鏡で胃粘膜病変を認めた.胃粘膜生検を含む精査の結果,乳癌胃転移・肝転移の診断となり化学療法を開始したが,偽性肝硬変を呈し,レジメンの変更と肝硬変に準じた内科的治療を併施した.乳癌胃転移と偽性肝硬変は,いずれも比較的稀である.若干の文献的考察を加えて報告する.

単孔式胸腔鏡手術を行った気管支背側にV2が走行する肺癌の1例

美杉会佐藤病院呼吸器外科

安川 元章

 症例は73歳,男性.検診異常で当院に紹介となり,CT上,右肺上葉に径1.8cmの結節影を認めた.術前の造影CTで,右主気管支背側を走行し右上肺静脈根部に流入する右後上区域静脈(V2)を認めた.原発性肺癌の診断で入院,単孔式胸腔鏡下右肺上葉切除を施行した.まず背側V2を処理し,その後,前方から血管および気管支を処理した.背側V2は単孔式の視野で十分確認でき,また安全に処理できた.術後経過は良好で術後8日目に退院となった.今回,背側V2を術前に確認しており,単孔式アプローチで背側の視野確保や処理が困難であれば,追加ポートを設けて対応する計画をたてていた.結果として単孔式アプローチのみで胸腔鏡手術を完遂できた.肺動静脈の走行異常は多数のパターンがあり,術前に走行異常を把握しておくことは安全に手術を遂行する上で重要である.今回,われわれは気管支背側をV2が走行する肺癌症例を経験したので報告する.

胃切除後早期に発症しTAEで救命した短胃動脈仮性動脈瘤破裂の1例

千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学

廣砂 琢也 他

 症例は81歳の男性で,胃体部癌cStageⅠに対し開腹で胃切除術(D1+郭清,BillrothⅡ再建)を行った.術後9日目の採血で炎症反応の上昇,単純CTで吻合部周囲の腹腔内膿瘍を認めた.縫合不全の診断で絶食・抗菌薬管理を開始したが,術後12日目の造影CTで膿瘍の増大と短胃動脈領域の仮性動脈瘤を認め,緊急TAEの方針とした.待機中に血圧低下,貧血の進行を認め,再度の造影CTで胃内に凝血塊と考えられる新規の高吸収域を認めた.血管造影検査で短胃動脈の末梢血管に動脈瘤を認め,漏出した造影剤が吻合部を経由して残胃内に流入することが確認された.コイル塞栓によるTAEを施行し止血を得た.翌日の造影CTで止血と胃壁の血流維持を確認後,遺残膿瘍に対しCTガイド下ドレナージを施行した.経過は良好で術後35日目に退院となった.胃切除後の腹部仮性動脈瘤破裂による出血はまれな病態だが,重篤な転帰をたどる.出血源の推定と適切な止血法を選択することの重要性が示唆された.

無症状で発見された胃癌虫垂転移の1例

北部地区医師会病院外科

木村 研吾 他

 症例は79歳,男性.2021年3月に,前庭部胃癌に対し腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した.術後病理検査結果は,T4a,INFc,Ly1c,V1b,N0,pStageⅡbであった.術後補助化学療法としてTS-1(100mg/day)を導入したが,11カ月目に帯状疱疹を発症し,途中で中止となった.術後2年5カ月目の腹部造影CTで造影効果を伴う虫垂腫瘍を認め,腹腔鏡下虫垂切除を施行した.腹腔内を観察すると,明らかな播種性病変などは認めず,虫垂切除のみを施行した.術後病理検査結果は,組織学的に既往の胃癌と類似した構造を呈する腺癌を認めた.免疫染色を追加すると,双方ともCK(+),CK20(-),CDX2(+),MUC6(+),HER2(-)と同様の染色態度を示し形態的にも類似していることから,胃癌の虫垂転移と診断した.術後はG-SOX+ニボルマブを施行し,虫垂切除8カ月無再発生存中である.胃癌虫垂転移は比較的稀な疾患であり,本邦報告例は16例のみであったため,自件例を加えて報告する.

急性虫垂炎を併発した腸管重複症の1例

春日井市民病院外科

伊藤 博崇 他

 症例は22歳の女性で,右下腹部痛を主訴に当院を受診した.発熱は認めず,右下腹部に軽度圧痛を認めるも筋性防御は認めなかった.血液検査にて軽度の炎症反応上昇を認めた.腹部CTで虫垂腫大と周囲脂肪織濃度上昇を認め,急性虫垂炎の疑いで保存的治療の方針としたが,後日腹部症状の増悪を認めたため,手術の方針とした.腹腔鏡下で虫垂の腫大を認め,虫垂切除を施行したが,回盲部から約50cmの回腸の間膜を鈍的に剥離すると,排膿が見られた.小開腹にて同部位を検索すると重複腸管を認め,小腸部分切除術も施行した.病理学的検査にて急性虫垂炎および回腸重複腸管穿通の診断に至った.異所性成分は認めず,腫瘍は認めなかった.術後経過は良好で,術後7日目に退院となった.今回の病態は先に虫垂炎を発症し,重複腸管の内圧が上昇して穿通に至ったと考えられる.今回われわれは,稀な疾患である急性虫垂炎を併発した腸管重複症を経験したので報告する.

腹腔鏡下結腸切除術を行った成人Waugh’s syndromeの1例

市立伊丹病院外科

谷澤 佑理 他

 症例は70歳,女性.約5年前に無回転型腸回転異常症と,横行結腸脂肪腫を指摘されていた.1カ月前,腹痛のため近医を受診しCTにて脂肪腫による腸重積と診断された.造影CTで腸管壊死や腸閉塞を認めなかったため,待機的に腹腔鏡下横行結腸部分切除術を施行した.腸回転異常症による解剖学的変異と腸間膜の高度な癒着のため,最初に横行結腸頭側から網嚢腔を開放し,次に脾弯曲部,下行結腸を授動した.結腸同士の癒着を剥離し,体腔外で腸管切除,機能的端々吻合を行った.術後経過は良好で,術後8日目に退院となった.腸回転異常症と腸重積の併発はWaugh’s syndromeとして知られるが,成人報告例は小児と比べ少ない.成人では腫瘍性病変が原因で,外科的切除が必要となる症例が多い.腹腔鏡手術も選択肢と考えられ,腸回転異常症による解剖学的変異や癒着を考慮し,手術方法やアプローチを計画するのが望ましい.今回われわれは,成人Waugh’s syndromeに対し腹腔鏡手術が可能であった症例を経験した.

Persistent descending mesocolonと馬蹄腎を伴うS状結腸癌の1例

三井記念病院消化器外科

竹原 琴音 他

 症例は66歳,男性.主訴は下腹部痛.下部消化管内視鏡検査でS状結腸に全周性の2型病変を認め,腹部骨盤造影CTではlong-S型persistent descending mesocolon(以下,PDMと略記)と馬蹄腎を認めた.S状結腸癌cT3N1aM0 StageⅢbに対し,腹腔鏡補助下S状結腸切除術を予定した.解剖学的異常に加え,小腸浸潤を疑う所見により開腹移行となった.下行結腸は内側へ偏位し,long-S型PDMにより広範な癒着剥離を要した.また,馬蹄腎により下腸間膜動脈根部は腎狭部に覆われており,下腸間膜動脈中枢側への剥離操作は危険と判断し,D2リンパ節郭清とした.手術時間は264分だった.
 PDMの特徴として,左側結腸間膜の広範囲な癒着と左側結腸間膜の短縮に伴う血管走行異常が挙げられる.また,馬蹄腎併存の手術では過剰腎動静脈,尿管,自律神経の走行に注意が必要である.これらの解剖学的異常を十分に理解して手術に臨むことが肝要である.PDMと馬蹄腎を合併した大腸癌の症例は本邦初報告であり,文献考察を交え報告する.

吸引娩出器を用いて摘出した直腸内異物の1例

相澤病院外科

西田 保則 他

 症例は50歳台の男性.5日前に直腸に8cmの球形異物を経肛門的に自己挿入し,抜去困難となり当院へ受診となった.直腸診では肛門縁より約5cmに異物を触知した.同日全身麻酔下,経肛門的に摘出を試みたが,異物は球体で大きく十分な牽引ができなかった.小開腹下に腹腔内から用手的圧迫も併用したが,経肛門的に摘出は困難であった.また,腹腔側への誘導も異物が大きく不可能であった.腸閉塞や消化管穿孔はなかったため,後日再度全身麻酔下に摘出を試み,吸引娩出器を用いて摘出した.体位を砕石位から膝胸位にし,吸引圧を70cmHg程度として牽引することで経肛門的に摘出できた.直腸内異物は時に遭遇する腹部救急疾患で,異物の大きさや形状,材質が様々であり,摘出に難渋することも少なくない.把持や牽引が困難な,大型球形でガラスや水晶などの材質の直腸内異物に対し,吸引娩出器を用いた方法は有用と考えられた.

Pagetoid spreadを伴う鼠径リンパ節転移陽性肛門管腺癌の1例

阪南市民病院外科・消化器外科

木下 博之 他

 症例は72歳の男性で,肛門周囲の皮膚びらんを主訴に皮膚科を受診した.同部の生検の結果,免疫組織学的検査でCK7,CK20,CDX2いずれも陽性であるPaget細胞を表皮内に認めた.下部消化管内視鏡検査では下部直腸から肛門管に半周性の隆起性病変を認め,生検では中~高分化型腺癌であった.腹部CTでは両側鼠径リンパ節腫大を認め,pagetoid spread(以下PS)を伴う鼠径リンパ節転移陽性肛門管癌と診断した.術前に肛門周囲皮膚のmapping biopsyを行い,腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術,D3リンパ節郭清,転移側鼠径リンパ節郭清術を行った.最終的な診断は直腸型腺癌(pap>tub1),pT1b,pN1b,pStageⅢaであった.術後は補助化学療法を行い,術後1年が経過した現在無再発生存中である.
 PSを伴う肛門管癌は比較的稀である.本邦報告83例の臨床病理学的特徴と治療を含め報告する.

肝類上皮血管内皮腫の3例

千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学

八木 翔太郎 他

 肝原発の類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma)は肝悪性腫瘍全体の0.1%以下の非常に稀な疾患であり,非特異的な画像所見と腫瘍生検の正診率の低さから,術前診断が困難な疾患である.今回われわれは2012年から2021年までに,当科で切除した3例の術前診断や治療に関して検討した.
 症例1は腫瘍生検で肝内胆管癌の術前診断となり,肝右三区域切除術を施行した.術後の組織学的所見で肝類上皮血管内皮腫の診断となった.症例2は臨床経過と画像所見から術前に肝類上皮血管内皮腫と診断し,肝部分切除を施行した.術後の組織学的所見で肝類上皮血管内皮腫の確定診断に至った.症例3は画像所見から肝類上皮血管内皮腫および同時性肺転移を疑った.
 腫瘍生検を施行し,類上皮血管内皮腫の診断とし,肝部分切除を施行した.
 肝類上皮血管内皮腫は術前診断が困難と言われているが,臨床経過や画像所見から肝類上皮血管内皮腫を鑑別診断に挙げ,治療戦略を練ることが非常に重要であると考える.

TEP法を行った広背筋皮弁乳房再建後の腰ヘルニアの1例

JCHO中京病院一般消化器外科

鈴木 真理香 他

 症例は54歳,女性.左乳癌に対して乳房全摘術,センチネルリンパ節生検,広背筋皮弁による一次一期再建を行った.術後1年の診察時に左腰部の腫脹と違和感を自覚し,腹部CTで左腰ヘルニアと診断した.広背筋皮弁の創が背部にあったため,腹腔外腔アプローチ(TEP:totally extraperitoneal approach)による腹腔鏡下手術を選択した.左腹部での交差切開で腹膜前腔に到達し,第12肋骨と腹横筋をメルクマールに剥離を進めると4×3cmのヘルニア門を同定.腸骨下腹神経を温存し,クーゲルパッチSサイズを使用して修復した.術後6カ月現在,再発や神経障害はなく経過している.広背筋による乳房再建後の腰ヘルニアは稀であり,さらにTEP法で修復を行った症例報告は少ないため報告する.

Modified IPOMで修復した心臓外科手術の鼠径部操作発症のヘルニアの1例

近畿大学外科

波江野 真大 他

 78歳,女性.大動脈弁置換術時の人工心肺装着を目的とした血管確保の際,右大腿静脈損傷による出血にて鼠径靱帯・鼠径管後壁を開放し止血が行われた.術後3カ月頃より右鼠径部に手拳大の膨隆が出現し,発症後6カ月目に当科を受診.鼠径部ヘルニアの診断で腹腔鏡下手術加療の方針とした.
 手術所見:正中側のiliopubic tractは欠損し,Hesselbach三角と大腿輪が一体となったヘルニア門を認めた.ヘルニア門部は腹膜前腔の瘢痕癒着により剥離できず,TAPP法は困難と判断.一方,内側は膀胱前腔の剥離が可能であり,術式をmodified IPOM法に変更した.腹壁瘢痕ヘルニア用のメッシュを使用し,正中側はCooper靱帯・腹直筋にタッキング,外側は腹膜上に固定した.膀胱前腔は,膀胱外側腹膜,メッシュ,内側臍ヒダを縫合閉鎖した.
 患者は合併症なく術後7日目に退院し,術後3年経過しているが再発や合併症は認めていない.

鼠径ヘルニア嵌頓による盲腸穿孔の1例

おおたかの森病院外科

菊池 順子 他

 症例は80歳,男性.以前から右鼠径ヘルニアを認めていた.2019年4月に突然右鼠径部痛出現し,翌日右鼠径部の発赤を認め近医を受診.右鼠径ヘルニア嵌頓と診断され,手術目的にて当院に紹介となった.来院時右鼠径部の腫大・発赤・疼痛を認めたが,腹部は異常を認めなかった.腹部CTにてヘルニア嚢内に盲腸が嵌頓し,盲腸周囲に液体貯留,air bubbleを認めた.盲腸穿孔と診断し緊急手術を施行した.右鼠径管上を切開しヘルニア嚢を開放すると壊死した盲腸が穿孔しており,盲腸周囲に膿汁を認めた.ヘルニア門を開放し腹腔内を観察したが,回腸や上行結腸に異常は無く,腹腔内には膿汁や感染腹水は認めなかった.盲腸壊死部と虫垂を含めた盲腸の一部切除で根治術可能と判断し,盲腸部分切除を施行した.腹腔内にドレーン留置後,鼠径ヘルニアに対してはBassini法を行い手術を終了した.術後経過は良好で術後11日目に退院した.現在術後5年が経過し,鼠径ヘルニアの再発は認めていない.

待機的手術を行った小腸脱出を伴う坐骨ヘルニアの1例

キッコーマン総合病院外科

吉岡 佑一郎 他

 坐骨ヘルニアは骨盤底ヘルニアの一つに分類されている,坐骨孔より脱出するヘルニアである.症例は79歳,女性.3カ月前から反復する下腹部痛を主訴に受診した.腹部CTでは右大坐骨孔より回腸が脱出しており右坐骨ヘルニアの診断となったが,回腸に血流障害を認めず,血液検査上も異常所見を認めなかったことから併存疾患のリスクなども考慮し,待機的手術の方針とした.手術では右大坐骨孔に陥入していた回腸は自然還納されており腸管切除は不要であった.ヘルニア門は腹膜前腔を剥離しソフトメッシュを用いて修復した.坐骨ヘルニアは最も稀な骨盤内ヘルニアとされている.さらには,脱出する臓器によっても症状が異なり診断・治療方針の判断も悩ましい疾患である.小腸が脱出していた坐骨ヘルニアに対して待機的手術を施行した症例の報告は少なく,文献的考察を加え報告する.

ページトップ