日本臨床外科学会雑誌 第82巻11号 掲載予定論文 和文抄録

 

症例

ERCP後膵炎を契機に高Ca血症クリーゼを発症した副甲状腺腺腫の1例

JA愛知厚生連海南病院外科

荒木 貴代 他

 ERCP後膵炎を契機に高Ca血症クリーゼを発症し,原発性副甲状腺機能亢進症と診断され緊急で腫大腺を摘出し救命した1例を経験したので報告する.症例は80歳男性,閉塞性黄疸精査目的に入院した.入院時,血清Ca 11.7mg/dL(補正値)と高値であったが特に精査はされていなかった.入院当日にERCPを施行し,胆管細胞診にて下部胆管癌と診断した.第2病日にERCP後膵炎を発症したため保存的治療を開始した.膵炎は速やかに軽快したが第5病日より高Ca血症が急速に増悪した.保存的治療に不応で血清Ca 21.9mg/dL(補正値)まで上昇した.血清intact-PTH 647pg/mL,超音波検査にて径13.4×15.1×9.6 mmの左下副甲状腺腫大を認め,原発性副甲状腺機能亢進症による高Ca血症クリーゼと診断し,第8病日に緊急腫大腺摘出術を行った.術後1時間に血清intact-PTHは正常化し,第12病日には血清Ca10.7mg/dL(補正値)まで改善した.全身状態改善後の第55病日に下部胆管癌に対し根治術を施行したが,第178病日,がん性腹膜炎にて永眠した.

乳癌術後の傍腫瘍性神経症候群による脊髄炎の1例

山口県立総合医療センター外科

藤井 雅和 他

 症例は54歳の女性で、右乳癌の診断で右乳房切除術+腋窩リンパ節郭清(Level Ⅱ)を施行した。Invasive ductal carcinoma、solid typeと診断された。ER(-)、PgR(-)、HER2(0)、 MIB-1 labeling indexは90%以上で、T2、N0、M0、stage ⅡAであった。術後4週間後の外来通院時に嘔吐と両上肢のしびれ・脱力感の訴えがあった。手術以外の原因が考えられたため、脳神経内科に紹介した。抗Zic4抗体が陽性であり、傍腫瘍性神経症候群による脊髄炎と診断された。入院しステロイドパルス療法が開始され、徐々に神経学的所見が改善し、約1ヶ月後に退院した。その後プレドニンは漸減され、10か月後には終了となった。術後5ヶ月目より補助化学療法を施行した。術後1年経過したが再発・転移は認めていない。傍腫瘍性神経症候群は速やかな診断と治療が必要である。術後に原因不明の神経症状などの訴えた場合は、傍腫瘍性神経症候群の可能性も考慮しなければならない。

閉経前乳腺solid papillary carcinoma with invasionの1例

平塚市民病院乳腺外科

原 明日香 他

 Solid papillary carcinoma (SPC) は全乳癌の1%と稀な組織型であり, 70歳代以降の高齢者に多い. 今回我々は, 閉経前乳腺SPCを経験した. 症例は, 40歳閉経前, 女性. 検診での超音波検査において5mm大の左乳腺腫瘤を指摘され, 要精査となり当院を受診した. 触診では左乳房3時方向に5mm径の腫瘤を触知した. 画像所見より悪性が疑われたため, 針生検を施行した. 病理組織検査では, 浸潤性乳管癌, SPC疑いであり, 神経内分泌分化を示す腫瘍であった.左乳癌cT1bN0M0 cStageIと診断し, 左乳房部分切除術及びセンチネルリンパ節生検を実施した. 術後組織病理診断はIDC, SPC with neuroendocrine differentiation pT1a(2mm)NOMO pStageIであった. 術後薬物療法としてホルモン治療と全乳房照射50Gyを実施した.

単孔式腹腔鏡補助下十二指腸空腸吻合術を行った上腸間膜動脈症候群の1例

済生会滋賀県病院外科

中道 脩介 他

 上腸間膜動脈(superior mesenteric artery, 以下SMAと略記)症候群は十二指腸水平脚が腹部大動脈とSMAとの間で圧迫されることで通過障害を呈する疾患である. 治療方針としては, 保存的加療が第一選択だが, 奏功しない場合は十二指腸空腸吻合術といった外科的加療も選択される. さらに近年では腹腔鏡下での十二指腸空腸吻合術の報告も見られるようになり, また単孔式での手術も注目されてきている. 今回我々は保存的加療が奏功しない86歳男性のSMA症候群に対し単孔式腹腔鏡補助下十二指腸空腸吻合術を施行した. 術前のCTで十二指腸水平脚の位置を確認し同レベルで開腹することで, フレキシブルな鉗子操作と手技の中でも重要な消化管吻合を直視下で行うことが可能であった.本術式は吻合操作を直視下で安定して行えるという点で, 従来の腹腔鏡下のみの手技より安全でかつ確実に行える術式と考えられる.

急性腹症を呈した真性腸石を伴うMeckel憩室穿孔の1例

富士市立中央病院外科

植田 豊作 他

 症例は39歳,男性.心窩部痛と嘔吐を主訴に当院を受診した.急性胃腸炎と診断し,保存的加療を開始したが症状の増悪を認めたため,第2病日に腹部CTを撮像したところ腸石を伴ったMeckel憩室の穿孔が疑われ緊急手術を施行した.腹腔鏡下に腹腔内を観察すると混濁した腹水の貯留および小腸の周囲組織との癒着を認めた.癒着剥離後,小腸を体外へ授動したところ,回盲弁より口側約100cmの位置に腸間膜対側に穿孔した憩室を認め,Meckel憩室と考えられた.憩室は4cm大であり小腸への炎症波及も認められたことから憩室を含む小腸部分切除を施行した.病理組織学的には憩室粘膜に異所性組織を認めなかったが,摘出した憩室内には約2cm大の腸石を2個認め,成分分析の結果,シュウ酸カルシウム結石であった.真性腸石を伴ったMeckel憩室の穿孔例は極めて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

回腸穿孔をきたした原発性消化管アミロイドーシスの1例

馬場記念病院外科

佐久間 崇 他

 消化管アミロイドーシスでの小腸穿孔例は自験例を含め本邦報告4例と非常に稀であり,免疫低下や臓器機能障害の背景から特に穿孔例では周術期死亡率が高いとされている.術式においては一期的吻合か腸瘻造設のどちらを選択するかで議論となる.今回我々は,原発性消化管アミロイドーシスにより小腸穿孔をきたしたが,経過良好であった症例を経験したので報告する.症例は76歳の男性.腹痛を主訴に当院へ救急搬送され,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.回腸に2ヶ所の穿孔と小腸漿膜面に輪状の白色斑を広範囲に認めた.小腸部分切除術を施行し,機能的端々吻合にて再建した.病理組織学的所見では粘膜下層への広範なアミロイド沈着を認め,原発性限局性結節性消化管アミロイドーシスと診断された.縫合不全を発症することなく術後25日目に退院し,外来にて経過観察中である.

Blind loop syndromeに起因する腸管皮膚瘻の2例

熊本赤十字病院外科

佐々木 妙子 他

 症例1は48歳,男性.幼少時に腸重積,腸閉塞で2回と計3回の手術歴がある.47歳時に右下腹部の手術瘢痕に腸瘻を形成した.1年半の保存的加療でも治癒せず,手術の方針とした.開腹所見で小腸の側々吻合により形成され拡張したblind loop が皮膚との瘻孔を形成していた.Blind loopを切除し端々吻合を行い術後は良好に経過した.症例2は65歳,女性.虫垂炎,子宮筋腫,腸閉塞と3回の手術歴がある.64歳時に正中の手術瘢痕に腸瘻を生じた.他院で手術を試みられたが,広範な癒着により試験開腹で手術を終えている.当院外来で保存的に加療するも治癒せず,発症から1年後に手術を施行,開腹所見,術式は症例1と同様であった.腸閉塞の手術歴がある患者に腸管皮膚瘻を認めた場合には,blind loop syndromeを鑑別に挙げる必要があり,保存的加療では治癒困難のため早期の手術を行うことが望ましい.

乳糜腹水を伴う絞扼性腸閉塞の2例

東住吉森本病院外科

谷村 卓哉 他

 乳糜腹水を伴う絞扼性腸閉塞は非常に稀な病態であり、今回我々はその2例を経験したので報告する。1例目は直腸癌及び絞扼性腸閉塞に対して手術歴がある98歳、男性。右側腹部痛と嘔吐を認めたため当院救急搬送され、絞扼性腸閉塞の診断で緊急開腹術を施行した。臍部頭側に索状物を認め、約80㎝の小腸が絞扼されていた。絞扼腸管の漿膜面・腸間膜が白くリンパが浮き出ており、周囲には無臭で桃白色混濁した腹水を認めた。2例目は89歳、男性。数日前からの嘔気と食事摂取不良を訴え当院受診し、絞扼性腸閉塞の診断で緊急開腹術を施行した。Treiz靭帯から肛門側の全小腸が反時計回りに約360度捻転し、絞扼していた。腸間膜は一部白色でリンパ管が浮き出ており、無臭で黄白色混濁した腹水を多量に認めた。2例とも壊死を疑う腸管を認めなったため腸管切除を行わず手術を終了し、術後経過は良好であった。

乳児期に発症し61歳で手術した腸回転異常症の1例

焼津市立総合病院外科

牧野 晃大 他

 症例は61歳女性.乳児期より繰り返す腹痛と嘔吐の症状があり,急性腎不全に至り入院加療を受けることもあった.20代で腸回転異常症の指摘はされるも手術を受けるには至らず経過していた.しかし近年になって腸閉塞症の診断で当院消化器内科にて入退院を繰り返すようになり,消化器外科紹介となった. 上部消化管造影とCTの検査所見より,不完全回転型の腸回転異常症であった.待機的に腹腔鏡下手術を施行した.十二指腸空腸移行部の前面の索状組織を切離し,小腸の上腸間膜動脈を軸とした時計方向180度の捻転を解除した(Ladd手術).術後早期の一過性の腸閉塞症状を来たしたが,それ以降は症状の再燃なく約1年経過している.本邦の成人腸回転異常症の報告例を集計すると,不完全回転型は無回転型に比べて腸回転異常症について有症状の割合が有意に多く,結果としてLadd靭帯の切離と軸捻転の解除といったLadd手術が行われた割合も有意に高かった.

腸重積を契機に診断し腹腔鏡補助下に手術を行った小腸悪性黒色腫の1例

中頭病院外科

小倉 加奈子 他

 症例は36歳,女性.1ヶ月前からの水様性下痢と臍周囲の痛みで受診し,腹部造影CTで小腸の複数箇所に壁肥厚と重積所見を認めた.多発小腸腫瘍に伴う腸重積の診断で緊急手術を施行した.腹腔鏡下に観察すると黒色調の腫瘍を先進部とした重積腸管を認め,小腸全体で同部を含む計5つの腫瘍を摘出した.経過は良好で第8病日に退院となった.病理組織学的検査で悪性黒色腫と診断し,PET-CTで仙骨,腸骨および多発肺転移を認めたため他院でダカルバジンによる化学療法導入された.消化管原発の悪性黒色腫の発生頻度は悪性黒色腫全体の1.4~1.8%と低く,小腸原発は極めて稀である.本症例では診断時に既に全身性転移を認めており,原発部位は不明であるが転移と診断するのが妥当と判断した.予後が望めない場合も多いが,腸重積や下血,穿孔の原因となり得る腫瘍を腹腔鏡補助下に全切除でき,術後速やかに化学療法を開始することができた点は非常に有用であったと考える.

腸重積をきたした横行結腸リンパ管腫の1例

山口県立総合医療センター外科

川口 雄太 他

 症例は41歳、女性。2日前からの増強する心窩部痛を主訴に当院救急外来を受診。腹部単純CTにて横行結腸腫瘍による腸重積と診断。腹膜刺激症状を伴う強い腹痛を呈しており緊急手術を施行した。手術所見では横行結腸腫瘍による腸重積を認め、Hutchinson手技で容易に整復され腸管血流障害はなかった。横行結腸部分切除を行い標本摘出。標本を確認すると粘膜下腫瘍であり、追加のリンパ節郭清は行わず終了した。病理診断は嚢胞状リンパ管腫であった。経過良好で術後7日目に退院とした。

悪性腫瘍との鑑別を要したS状結腸憩室炎による結腸膀胱皮膚瘻の1例

宮崎大学外科学講座消化管・内分泌・小児外科分野

市来 伸彦 他

 症例は70歳男性,腹部膨満を主訴にS状結腸狭窄による腸閉塞を発症した.前医の下部消化管内視鏡(CS)では病変の観察が困難で術前に診断がつかなかったが,横行結腸の人工肛門造設術を施行された.術後3ヶ月にS状結腸膀胱瘻を形成し,さらに皮膚瘻の形成に至った.その後根治術目的で当科紹介となった.CTにてS状結腸~直腸の壁肥厚が著明であり,経過としても悪性腫瘍が疑われたが,当科でのCS時には病変部の観察が可能で,悪性所見は指摘されず,憩室を多数認めた.憩室炎による結腸膀胱皮膚瘻と診断し,手術を行った.泌尿器科にて両側尿管ステント留置後に,腹壁の瘻孔を含めてS状結腸直腸切除と膀胱部分切除術を行った.一時的回腸人工肛門造設術を施行した.病理学的には悪性所見はなく,憩室炎の診断であった.悪性腫瘍との鑑別を要したS状結腸憩室炎による結腸膀胱皮膚瘻に対し,適切に診断し,他科と協力し根治術を完遂することができた.

左子宮付属器に穿通し卵巣膿瘍を併発したS状結腸憩室炎の1例

千葉市立青葉病院外科

小田 健司 他

 症例は72歳, 女性. 血便, 左下腹部痛を主訴に当院内科受診した. 腹部造影CT検査でS状結腸に多発する憩室を認め, その一部より連続して高吸収域が左付属器近傍に広がり, 内部に低吸収域および腸管外ガスを伴っていた. S状結腸憩室炎による子宮付属器領域への穿通および膿瘍形成と診断し保存的治療を開始したが, CT検査で腸管外ガスおよび膿瘍形成が持続していたためS状結腸部分切除および左付属器切除術を施行した. 病理組織学的にはS状結腸の漿膜下を主体に仮性憩室の破綻と炎症細胞胞浸潤を認め, 左卵巣には好中球の集簇からなる膿瘍形成および異物型多核巨細胞を認めた. 術後経過は良好で, 術後16日目に退院となった. 今回我々は左子宮付属器に穿通し, 卵巣膿瘍を併発したS状結腸憩室炎の1例を経験した. きわめて稀な症例と思われ, 若干の文献的考察を行い報告する.

性染色体異常による外性器奇形を有する女性の膣浸潤を伴う直腸癌の1例

国家公務員共済組合連合会枚方公済病院外科

小嶋 大也 他

 膣や子宮,膀胱,仙骨など周囲臓器浸潤を伴う直腸癌の手術報告は多数あるが,外性器奇形を有する患者における本邦での手術報告は検索しうる限りない.症例は性染色体異常および外性器奇形を有する50歳の女性で,低位直腸に膣浸潤を伴う2型腫瘍を認めた.腫瘍径が大きく浸潤範囲が広範であったため術前化学療法を行った後に根治的手術を施行した.術式の決定に際しては外性器奇形および内性器が低形成であったため,排尿機能および性機能に対する配慮が必要であった.術前に入念な検査および検討を行うことで,今回,我々は外性器奇形を有する女性に対して膣後壁切除を伴う腹腔鏡下直腸切断術を安全に施行することができた.外性器奇形を有する女性での膣浸潤を伴う直腸癌の手術症例はまれであるため,若干の考察を加えて報告する.

腹腔鏡下肝切除を行った肝類上皮血管内皮腫の1例

さいたま赤十字病院外科

内藤  慶 他

 症例は37歳女性. 乳癌術前精査のCTで肝S6に42mm大の腫瘤を認めた. 乳癌肝転移の可能性も考えたが, 画像検査による確定診断は困難であり, 経皮経肝腫瘍生検を施行した. 生検の結果, 類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma;EHE)が疑われ, 乳癌手術後に腹腔鏡下肝S6部分切除を施行した. 術後合併症は特に認めず, 第9病日に退院となった. 術後病理結果により肝EHEと診断し, 術後経過観察を継続しているが再発は認めていない. 本症例は術前に肝EHEを疑い, 腹腔鏡下に切除した稀な症例であるので, 若干の文献的考察を加え報告する.

腹腔鏡下肝切除を行った重症再生不良性貧血併存肝細胞癌の1例

長崎大学大学院移植・消化器外科

右田 一成 他

 症例は70代男性。30代で再生不良性貧血の診断を受け、以降定期的に輸血を行っていた。通院中に単純CTで肝外側区域に単発の腫瘤性病変を指摘された。造影剤アレルギーのため造影CTを施行できず、診断のため肝腫瘍生検施行、肝細胞癌の診断にて当科紹介。著明な汎血球減少を認め、手術リスクは非常に高いと考えられた。しかし、最大腫瘍径3.0 cm、造影剤アレルギーのためラジオ波焼灼療法および肝動脈塞栓療法は不適と判断、術前計画的な血小板輸血を行い、腹腔鏡下肝外側区域切除術を行った。術後大きな合併症なく自宅退院した。現在、術後16か月であるが、再発なく経過している。再生不良性貧血を伴う肝細胞癌患者では周術期に貧血、出血傾向、易感染性のすべてが問題になるが、関係各科と連携して周術期管理を行うことで出血リスクを抑え治療することができる。

妊娠を契機に発症した先天性胆道拡張症戸谷Ⅰa型の1例

桐生厚生総合病院外科

大原 規彰 他

 症例は19歳の女性で,双胎児妊娠24週に心窩部痛が出現し,MRI検査で肝門部巨大嚢胞および胆嚢腫大を指摘されたため当院へ紹介となった.MRCPで巨大嚢胞は総胆管であることが判明した.また,ERCPでは胆管造影で主膵管が造影され,膵胆管合流異常が確認された.以上の所見より,肝外胆管の限局的拡張および膵胆管合流異常を合併した先天性胆道拡張症 戸谷Ⅰa型と診断した.
 PTBDで外瘻管理を行いつつ,胎児が安定する妊娠37週まで待機してから帝王切開を行い,母体の状態が安定した後に拡張胆管切除+胆道再建術を施行する方針とした.しかし,双胎児の発育不良のため妊娠27週に緊急帝王切開を要し,その6週間後に肝外胆管切除および胆管空腸吻合術を施行した.術後経過は良好であり,術後7日目に退院した.

Clear cell NET G1と腺癌が混在した肝外胆管原発MiNENの1例

関東中央病院外科

高橋 佳久 他

 症例は56歳男性,心窩部痛を主訴に当院を受診し,精査により胆嚢管合流部に限局した胆管癌と診断した.術前画像診断で腫瘍は10mm程度で胆管内に限局しており,肝外胆管切除術を施行した.病理組織学的には表層部の高分化型管状腺癌に加え,深部はClear cell neuroendocrine tumor(Clear cell NET) G1が主体であり,それぞれの成分が30%以上であるためmixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasm(MiNEN)と診断した.一部周囲脂肪組織に浸潤を認めたが水平方向への進展はなく,肝側,十二指腸側とも断端陰性であり根治切除と判断した.肝外胆管原発のMiNENは極めてまれな疾患であり,特に神経内分泌腫瘍成分がClear cell NET G1であるものは過去に報告例を認めなかった.

十二指腸狭窄を初発症状とした乳頭部胆管癌の1例

武蔵野赤十字病院外科

南角 哲俊 他

 十二指腸乳頭部癌は黄疸を初発症状とするものが多く、十二指腸狭窄で発症した報告は過去に認めない。今回、我々は十二指腸狭窄で発症した十二指腸乳頭部癌の1例を経験した。症例は57歳女性で、嘔吐のため当院を紹介受診した。各種検査において悪性所見を認めず、やがて十二指腸の完全閉塞を来したため入院となった。腹部造影CTでは、十二指腸粘膜下の肥厚および下行脚の狭窄を認めた。胆管や主膵管の拡張は認めなかった。悪性腫瘍の確定診断に至らず、十二指腸閉塞に対して胃空腸バイパス術を施行され、以後経過観察となっていたが、術後2か月より閉塞性黄疸を認め再入院となった。複数回の生検や胆汁細胞診でも悪性所見は認めなかったが、悪性腫瘍の可能性を否定できず、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。術後の病理組織学的検査で乳頭部胆管を主座とする高分化腺癌を認め、免疫染色検査の結果と合わせ乳頭部胆管癌の診断となった。

膵頭十二指腸切除を行った腹腔動脈起始部狭窄を伴う門脈輪状膵の1例

九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科

林  昌孝 他

 症例は53歳の男性で、膵頭部に膵管内乳頭粘液性腫瘍があり、膵液細胞診でclass Ⅳを認め切除となった。CTで腹腔動脈起始部狭窄と門脈輪状膵を認めた。手術では正中弓状靭帯を切離し、胃十二指腸動脈と背側膵動脈のクランプテストで肝血流の維持を確認した。膵は門脈輪状膵の形態であり、主膵管が門脈背側を走向していたため、再建を考慮し、まず上腸間膜動脈レベルで膵の切離を行った。続いて門脈腹側で自動縫合器を用いて膵を切離し観音開きとし、門脈左縁・背側を取り囲む膵を剥離した。最後に門脈右縁に流入する静脈と膵頭神経叢を切離し、膵頭十二指腸切除を完了した。診断は膵管内乳頭粘液性腺癌であり、術後膵液漏を認めたが保存的に軽快した。
 膵頭十二指腸切除の際には腹腔動脈起始部狭窄や門脈輪状膵を含めた様々な解剖学的変異を術前から注意して評価し、術後の臓器虚血や膵液漏の予防、再建を考慮した膵切除術を行うことが肝要である。

膵simple mucinous cystの1例

日本赤十字社和歌山医療センター外科

細川 慎一 他

 近年, Mucinous cystic neoplasmやIntraductal papillary mucinous neoplasm(以下,IPMNと略記)といった膵囊胞性病変に分類できない囊胞性病変に対し, さまざまな名称が使用されてきたが, 2014年に開かれたBaltimore consensus meeting で, 卵巣様間質を持たず, 異型に乏しい単層上皮で覆われた1 cm以上の囊胞性病変に対し, simple mucinous cystとの名称が提唱された. 症例は74歳の男性で, 2012年からCTで膵体部と尾部に囊胞性病変を指摘され, 経過観察されていた. 囊胞径徐々に増大し, また囊胞内部に結節様の壁肥厚を認め, 手術加療目的にて当科を紹介された. 分枝膵管型IPMN の診断にて脾合併膵体尾部切除術を施行した. 病理組織所見では, 卵巣様間質や上皮の乳頭状増殖を認めず, 単層の異型に乏しい円柱上皮で覆われ, 近年, 報告されているsimple mucinous cystと診断した.

無症候性抗リン脂質抗体キャリアを伴い脾摘が有効であったITPの1例

府中市民病院内分泌外科

和久 利彦 

 症例は脾摘術時63歳女性。血栓症の既往はない。歯科での止血困難から血小板減少を認め当院受診(脾摘術前17ヵ月)。当院精査でITPと診断され、LAが高値のためaaPLキャリアが疑われた。PSL50㎎の投与開始後漸減してPSL7.5㎎で維持療法ができていたが、血小板数が2.8X104/µlとなったためステロイド抵抗性ITPとして脾摘術を施行した。脾摘術前検査でのLAが高値だったことからaaPLキャリアと診断した。術直後血小板数は正常化したが、aaPLキャリアに対しは退院日まで未分画ヘパリンの持続投与を行った。脾摘術後1か月目でD-dimerの上昇を認めたためアスピリンの服用、運動・栄養指導を行い、脾摘術後23ヵ月にはLAは正常化した。ITPがaaPLキャリアを誘導し、ITPとaaPLキャリアが共通の免疫機構の異常をきたしていたのではないかと考えられ、周術期管理に注意を要する。

腹腔鏡手術を行った19歳女性の卵巣滑脱ヘルニア嵌頓の1例

済生会松阪総合病院外科

市川  健 他

 症例は19歳女性。2年前に左鼠径部の腫脹と疼痛が出現したが自然軽快していた。今回6日前より同様の症状が出現し疼痛が増強したため当科を受診した。身体所見では左鼠径部に圧痛を伴う腫瘤を触知した。血液検査では炎症反応上昇を認めず、腹部US、CTで卵巣の鼠径ヘルニア嵌頓と診断した。徒手整復は困難で、緊急で腹腔鏡下手術を施行した。術中所見では左内鼠径輪に卵巣が嵌頓しており、内鼠径輪周囲の腹膜を切開して嵌頓を解除した。卵巣は正常卵巣でヘルニア嚢の一部を形成しており、卵巣滑脱ヘルニア(L1型)と診断した。滑脱しなくなるまで卵巣周囲を剥離し、腹膜切開部の修復と内鼠径輪の縫合閉鎖を行った。若年成人女性の卵巣滑脱ヘルニアは稀であるが、腹腔鏡手術は正確な診断、整復、修復が可能であり、妊孕性の上でも有用な方法と考えられた。

腰背部体壁に限局した放線菌症の1例

霧島市立医師会医療センター外科

今村 智美 他

 症例は83歳,男性.主訴は右腰背部痛で,前医で右腰背部に60 mmの硬結を認めた.試験穿刺で膿性成分を認めなかった.セフカペンピボキシルを7日間投与されたが,硬結が改善せず当院へ紹介となった.WBC 7300 /μL, CRP 0.35 mg/dLで,HbA1c 8.2 %の糖尿病を認めた.US, CT, MRIで右胸腰部の皮下から腹膜に61 mmの軟部悪性腫瘍と鑑別が困難な膿瘍を認めた.糖尿病による易感染状態で,悪性疾患と鑑別困難な膿瘍であることより放線菌症を疑った.局所麻酔下にドレナージを行い,5 mm大の結節を多量に含む膿汁を認めた.腫瘤壁と膿瘍内容の組織診より放線菌症と診断された.アモキシシリン・クラブラン酸を術直後から6か月間投与し,治療開始後1年2カ月経過したが再発は認めていない.体壁に限局する放線菌症はまれで,悪性腫瘍と鑑別が困難な膿瘍では放線菌症を念頭におく必要がある.

腹壁に発生した粘液線維肉腫の1例

川崎医科大学総合医療センター外科

赤木 晃久 他

 粘液線維肉腫(myxofibrosarcoma:以下MFS)は軟部悪性腫瘍の一つであり、四肢に好発し、体幹部に発生するのは稀とされている。我々は腹壁原発のMFSを経験したので報告する。症例は89歳男性で左鼠径部膨隆を自覚して当科紹介受診した。造影CTにて前腹壁左腹直筋直下に約6㎝大の不均一に濃染する腫瘤を認め、腹壁デスモイドと診断された。上記診断を元に局所切除の方針となり手術を行った。臍下腹直筋鞘前葉と後葉の間に弾性軟の多結節腫瘤を認めた。大部分は鈍的剥離を行えたが、恥骨骨膜との固着部は一部合併切除した。肉眼所見では粘液性成分が線維性組織によって分割されていた。病理所見にて異型度の強い組織球様細胞の増殖を認め、MFS及びliposarcomaが考えられた。典型的な脂肪芽細胞の増殖は見られなかったことからMFSと診断した。術後経過は問題なく10日目に退院した。本症例はMFSとしては稀な腹壁原発であったため、術前診断が困難であった。文献的考察を含めて報告する。

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