(8) 腹腔鏡下手術ってどんな手術?
胃がんの外科手術でも、腹腔鏡下手術の行われる割合が急速に増えてきました。大きな傷をつくらなくてすむため、手術後の回復が早いというメリットがあります。
おなかに5〜6カ所穴をあけ特殊な器具を挿入して操作
胃がんの腹腔鏡下手術では、鉗子やメスなどを入れる通路となる筒状の器具(ポート)を挿入して行います。ポートの1つから、内部を映すカメラ(腹腔鏡)を入れ、その映像をモニターで見ながら手術を実施。特殊な鉗子やメスを操作して、胃やリンパ節を切除します。
ポートを挿入するためにおなかにあける穴(創)は平均5~6カ所で、それぞれ5mmから1cmほどです。このほかに、切りとった胃やリンパ節を外に出すため、小さく開腹することがあります(4cmほど)。
口から内視鏡を入れ、胃の内側からがんを切除する内視鏡的切除とは異なるので注意しましょう。
腹腔鏡下手術が健康保険で行えるようになったのは、2002年からです。1995年は152件だったのが、2005年には2631件、2017年には9134件まで増えました(※)。今後さらに増えることが予想されます。
※日本内視鏡外科学会 第14回全国アンケート調査より
summary腹腔鏡下手術
手術の内容は開腹手術と同じ
手術はポートから入れたカメラの映像をモニターで見ながら行います。必要な範囲の胃やリンパ節を切除し、切除した胃やリンパ節を取り出します。取り出すための小さな傷をつくることもあります。
残った胃と、食道、十二指腸や小腸をつなげて再建(食べ物の通り道をつくること)したあと、それぞれの傷を縫合して終わります。
開腹手術では、みぞおちからおへその少し下くらいまで縦に手術の傷ができますが、腹腔鏡下手術では、切除した胃やリンパ節を取り出すための小さな傷を1つつくることはあるものの、傷が小さいためあまり目立ちません。
手術の途中で開腹手術に切り替わることも
腹腔鏡下手術も開腹手術も、手術の内容は同じです。しかし、腹腔鏡下手術は、二次元のモニター画面を見ながら、おなかの中をイメージして特殊な鉗子やメスなどの操作を行うため、手術時間がやや長くなる傾向があります。また、手術の途中で、このまま進めるのはむずかしいと判断された場合、開腹手術に切り替わることもあります。
「胃癌治療ガイドライン」では、腹腔鏡下手術は臨床研究的な治療法、つまり従来の開腹手術とくらべて治療効果が劣らないかどうか、データを集めている段階の治療という位置づけです。とはいえ、実施件数や実施施設が急増し、QOLの面でもすぐれている腹腔鏡下手術は、今後主流となる可能性が高いでしょう。
開腹手術と腹腔鏡下手術は、それぞれ長所と短所があるので、どちらを行うか、担当医とよく話し合って決めましょう。
COLUMN内視鏡的切除と腹腔鏡下手術の違いとは
内視鏡的切除は胃の粘膜だけ腹腔鏡下手術は胃やリンパ節も切除
胃がんの治療法が進歩し、内視鏡的切除と腹腔鏡下手術が登場したため、病変部を切除するのに必ずしも開腹手術の必要はなくなりました。では、この2つはどこが違うのでしょう。
まず、内視鏡的切除は口からファイパースコープというカメラ付きの管を入れ、胃の内部からがんを切除する方法です。そのため、おなかに傷はできません。ただし、胃や転移の可能性のあるリンパ節を切除することはできません。粘膜内にとどまったがんを、そこだけ切除します。
一方、腹腔鏡下手術はおなかに平均5~6カ所の穴をあけ、そこにポートという器具を挿入。ポートから特殊なカメラ、鉗子、メスなどを入れて、胃やリンパ節を切除します。腹腔鏡下手術の場合、お腹の中で行われることは開腹手術と同じなので、施設によっては胃全摘術も腹腔鏡下手術で可能です。
対象となる病期が異なる
内視鏡的手術の対象となるのは、臨床分類の病期Ⅰでがんが粘膜にとどまっている人、腹腔鏡下手術の対象となるのは、おもに臨床分類の病期Ⅰで縮小手術が可能な人です。
内視鏡的切除は、胃の内側から病変の粘膜だけを切り取るため、粘膜下層よりも深くまで達したがんでは、胃に穴があいてしまう(穿孔)リスクが高く、またリンパ節を切除(郭清)することはできません。そのため、粘膜にとどまるがんで、リンパ節転移のないことが絶対的条件となります。
腹腔鏡下手術はリンパ節郭清も可能です。定型手術のD2郭清も、腹腔鏡下手術で行えます。
内視鏡的切除
→病変部のある粘膜だけを、はぎ取るように切除する。
腹腔鏡下手術
→胃や、転移の可能性があるリンパ節を切除する。おなかの中で行うことは外科手術と同じだが、傷が小さい。