更新日:2019年8月23日

4.胆石症の治療とは

1)胆嚢結石の治療

無症状の胆嚢結石症は原則的に治療の対象ではありません。腹痛や胸やけ、吐き気などがあれば治療したほうがいいでしょう。急性胆嚢炎は外科治療が必要です。
胆嚢結石の治療法は、大きく内科的治療と外科的治療に分かれます。内科的治療には、経口胆石溶解療法、体外衝撃波などがあります。外科的治療は胆嚢摘出術です。
経口胆石溶解療法は、効果がある人もいますが限られています。この療法の問題点は、完全溶解率が低いこと、治療に時間がかかること、再発することです。効果のある石は腹部CT検査に写らないようなタイプのコレステロール胆石に限ります。条件が整った胆石に対して経口溶解療法を行うと、2年で45%くらいの人が完全に溶解したという報告がありますが、一般には完全溶解率は20-40%程度であり、20-50%に再発するといわれています。体外衝撃波(ESWL)は完全消失率が約55%、再発率は1年で20%、5年で40%程度といわれています。
外科的治療法である胆嚢摘出術は、胆嚢結石ができる場所をなくしてしまうという意味で根本的な治療であるといえます。

2)胆嚢摘出術(腹腔鏡下胆嚢摘出術)

胆嚢摘出術は、開腹による方法と腹腔鏡を用いた方法とで説明されます。開腹による胆嚢摘出術は1882年にLangenbuchが施行して以来130年余りの歴史がある手術です。みぞおちから右わき腹にかけて15~20cmほどお腹を切って手術を行います(切開の方法はそのほかにみぞおちとへそを結ぶ線上、あるいはその少し右側などいろいろな方法があります)。
開腹手術に対し、わが国では1990年から腹腔鏡下手術が行われるようになりました。お腹を二酸化炭素のガスで膨らませ、腹腔鏡と呼ばれる細長いまっすぐなカメラをお腹に差込み、お腹の中の様子をテレビモニターに映します。お腹にさらに数ヶ所の小さな傷をつけ、モニタを見ながら手術器械(手術器具)を差し入れて、お腹の中で従来の開腹手術と同じ内容の手術を行います。この方法ですと、創は数か所ですが、創の大きさは0.5cm程度で、1か所だけは胆嚢を取り出すために少し大きく切ります。また、手術の後に身体を動かしたり、歩いたり、食事を摂ったりできるようになるまでの時間も、開腹手術に比べて早い、という、メリットがあります。つまり腹腔鏡下胆嚢摘出手術は整容性に優れるだけでなく、身体にやさしい手術であるといえます。
全身麻酔に耐えられる身体であることが重要です。技術と手術器具の進歩によって、腹腔鏡下胆嚢摘出手術の適応は大きく広がりました。現在はほとんどの胆嚢結石症が腹腔鏡下手術の対象であるといっても過言ではありません。しかし、中には腹腔鏡下の手術を受けられない、または適切ではない方がいます。腹腔鏡は直径1cmほどの細長いカメラで行いますので、手術のときに見える視野が限られています。そのため脂肪が多すぎたり癒着が強かったりすると、よく見えなくなりますので手術が危険になります。以前に上腹部の手術(胃や十二指腸などの手術)を受けられた方は癒着のために手術ができない事があり、このような方には開腹手術をおすすめいたします。
また、細長い器械をお腹に差し込んで手術を行うため、器械の動きに限界がありますので、予想外の出血、炎症や癒着などによって解剖が不明である場合には、手術中に腹腔鏡下手術から開腹手術に変更して行う場合もあります。
胆嚢摘出術に伴う合併症には、出血のほか胆汁漏出や胆管損傷、他臓器損傷があります。胆汁漏出はほとんどの場合自然に停止してしまうことが多いのですが、胆管損傷は付加手術が必要になったり治療期間が長くなったりすることがあります。胆管損傷には部分損傷と完全離断とがありますが、完全離断の場合胆道外科専門医による治療が適切です。他臓器損傷は十二指腸や大腸などの損傷です。いずれも胆嚢に近接した臓器で、癒着や電気メスの操作などで起こることがあります。また、腹腔鏡下手術に伴う深刻な合併症は深部静脈血栓症(いわゆるエコノミー症候群)です。特に下肢静脈瘤をお持ちの方やピルを内服されている方はリスクが高くなります。深部静脈血栓症を予防するために弾性ストッキングや脚をマッサージする器械を使用します。

3)総胆管結石の治療

胆嚢結石症に対する腹腔鏡下手術は今日では標準手術となっていますが、最近は胆管結石に対する腹腔鏡手術も脚光を浴びています。従来、胆管結石に対する治療は開腹手術が中心でしたが、近年は経口内視鏡の技術が進歩し普及していますので、総胆管結石の治療の選択肢が広がっています。最も行われているのは経口内視鏡による処置です(図7)。

この処置は、内視鏡を十二指腸まで進め、胆汁の出口(十二指腸乳頭部)から胆管に向けて細い器具を挿入して胆管結石を取り出す方法です。実際には、十二指腸乳頭部は繊細な筋肉で締められていて、胆汁の流出をコントロールしている場所なのですが、これを電気メスで切開したり、バルーンという細長い特別な風船で拡げたりすることによって、器具を挿入して胆管結石を取り出すことができます。この処置は全身麻酔の必要がないことが多く、体にメスを入れないことが特徴です。ただし、多くの場合、胆管結石は胆嚢結石を合併していますので、この処置の後に胆嚢摘出術(手術)を行う施設がほとんどです。時に、胆嚢摘出術の後にこの処置を行う、胆嚢摘出術と同時にこの処置を行う、ということもあります。
内視鏡的処置による十二指腸乳頭部への影響とその意味は、今のところ結論が出ていません。10年以上の長い期間で観察すると、外科手術に比較して胆管結石の再発率が高いという報告もあります。開腹手術や腹腔鏡手術は、十二指腸乳頭部に影響を与えずに一回の手術で治療を行うことができるという点で理にかなっているといえます。ただし、腹腔鏡下手術による胆管結石の治療は普及するのに時間がかっています。
腹腔鏡下手術による胆管結石の手術では、胆嚢と胆管をつなぐ胆嚢管という細い管から、約3mm径の小型の内視鏡を挿入して結石を取り出す経胆嚢管法という方法と、胆管を直接切り開いて結石を取り出す胆管切開法という方法の二つがあります(図8)。

開腹手術においては、多くは胆管切開法で行われます。いずれの方法でも、同時に胆嚢を摘出しますので一回の手術で治療が終わることになります。
経口内視鏡による処置も腹腔鏡手術による治療も、いずれも標準的な治療ですが、専門的な技術を要します。繊細な作業であり技術力が必要ですので、経験を積んだ熟練した医師のもとで治療を受けることが薦められます。

経口内視鏡による総胆管結石の摘出方法
外科手術による総胆管結石の摘出方法
図7 経口内視鏡による総胆管結石の摘出方法
図8 外科手術による総胆管結石の摘出方法

4)肝内結石の治療

肝内結石の治療は多様で、結石の種類、結石のある部位、最初に結石のできた部位、胆管の太さの異常、肝臓の状態などを総合的に判断して治療方針を決めます。外科手術には、肝切除術や十二指腸乳頭部の乳頭形成術、胆道再建といって胆管を切除して小腸を肝臓の胆管につなぐ手術などがあります。これらの外科手術の他には内視鏡を使った結石の除去などがあります。

5)遺残結石と再発結石

外科治療の後に、また結石が発見された場合、それが治療した結石の残り(遺残結石)なのか、新たに再発した結石(再発結石)なのか、推測することはできますが、わずかな例を除いて断定は不可能です。総胆管結石の遺残・再発では経口内視鏡による結石の摘出が行われます。手術的な治療を検討することもあります。肝内結石はもともと治療が多様ですので、その遺残・再発に対する治療は担当医とともによく検討することになります。

6)胆嚢を摘出したあとの影響について

胆嚢摘出術を行った後の、消化吸収機能の低下について明らかな統計データはありません。
胆嚢摘出術をしても消化吸収障害はおこらないといわれています。軟便や下痢、便秘などの消化器症状、排便習慣の変化が起こることはあります。時々おこる下痢が、3か月以降もみられるのは6%程度といわれています。また、大腸がん、乳がん、膵癌と胆嚢摘出との関連は明らかではありません。ただし、手術前と同じ症状が持続したり、術前になかった新たな症状が出現したりすることがあり、総称して胆嚢摘出後症候群といわれています。胆嚢摘出後症候群には明らかな定義はなく、症状の程度も様々で、頻度も明らかにされていません。
これらの状態により生じる可能性のある「生活の質を損ねるリスク」は、胆嚢を摘出することで症状が治癒することによってもたらされる「生活の質の向上」よりも低いと考えられています。このため、有症状の胆嚢結石症に対して胆嚢摘出術が推奨されています。

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