2.鼠径部(そけいぶ)ヘルニアの症状と種類
鼠径部ヘルニアはどんな症状があるの?
鼠径部(下腹部)にできた膨らみが、大きくなった小さくなったりするのが典型的な症状です。一般的には、おなかに力を入れたときは膨らみが強くなり、力を抜いたり手で押し戻したりすると膨らみはわからなくなってしまいます。立ち仕事の多い人は、一日のうちでは夕方に大きくなり、朝起きた時や静かに横になって寝ている時は小さくなってわかりにくくなります。すでにおなかに穴は開いていますので、横になっていてもおなかに力を入れると鼠径部がふくらむことが多くみられます。立ち仕事や腹圧をかけると鼠径部のふくらんでいる部分に何となく違和感や軽い疼痛があり(図3)、寝ると違和感や疼痛がなくなってしまうこと(図4)が鼠径部ヘルニアの典型的な症状です。
かんとん(嵌頓)とは何でしょうか?
飛び出した内臓が戻らなくなり、飛び出した腸管や脂肪などの血の流れが悪くなることをかんとん(嵌頓)と言います。最悪の場合には臓器が壊死(内臓が血流障害でくさってしまう)することもあり、非常に危険な状態です(図5)。この場合はかなり強い痛みを伴い、おなか全体が痛くなったり腸閉塞になって吐いたりすることもあります。血流障害の起こった腸管が破れて腹膜炎になる場合もあり、腹膜炎になると非常に大きな手術と長い入院治療が必要となります。場合によっては、かんとん(嵌頓)による腹膜炎から死に至る可能性もあります。
かんとん(嵌頓)のような危険な状態は、ある日突然起こります。脱出腸管がねじれたり、締め付けられたりしやすい状態のヘルニアでは、かんとん(嵌頓)がいつ起きるかわかりません。このような危険な状況になる前に鼠径部(そけいぶ)ヘルニアかなと思ったら医師の診察を受けてください。鼠径部(下腹部)が膨らむと同時に痛みや違和感などがある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
鼠径部(そけいぶ)ヘルニアの種類
専門的には鼠径(そけい)ヘルニアと大腿ヘルニアを合わせて鼠径部(そけいぶ)ヘルニアといいます。鼠径ヘルニアは医学的には外鼠径(間接型)ヘルニアと内鼠径(直接型)ヘルニアの二つに大きく分類されます。大腿ヘルニアは足へ血液を送る大腿血管の孔に臓器が飛び出るヘルニアです。外鼠径ヘルニア(Ⅰ型)、内鼠径ヘルニア(Ⅱ型)、大腿ヘルニア(Ⅲ型)の3種類のヘルニアを総称して鼠径部ヘルニアと呼んでいます(図6)。日本ヘルニア学会では、各ヘルニアを分類しています(図7)(文献②)。これらの分類を解析することで、今後の治療法や手術成績の向上などに役立てています。
鼠径部(下腹部)は複雑な筋層構造をしていますので、一つの穴だけではなく、いくつかの穴が発生する可能性があるのです。どのヘルニアも体の表面からみると鼠径部(下腹部)から足の付け根あたりが膨らみます。手術前の診察だけでは専門医でもヘルニアの種類が正確に診断できない場合もあります。また、高齢者などでは腹壁全体の筋層が弱くなる場合もあり、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの複数の穴が存在する複雑なヘルニアもあり、これは特殊型の併存型(Ⅳ型)と分類されています。
文献②:日本ヘルニア学会:鼠径部ヘルニアの分類(http://jhs.mas-sys.com/classification.html)
成人の鼠径部(そけいぶ)ヘルニアの男女差
医療界では一般的に16歳以上の人を成人として治療しています。成人鼠径部(そけいぶ)ヘルニアは女性に比べ男性に多く発症しますが、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアでは男女で頻度が異なっています。男性では外鼠径ヘルニアが最も多く、次に多いのが内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアは稀です。一方女性でも外鼠径ヘルニアが多いのは男性と同様ですが、次いで多いのが大腿ヘルニアで、内鼠径ヘルニアは少数です。子供を産んだことがある方に大腿ヘルニアが多く発生する傾向があると思われます。女性に多い痛みを伴う大腿ヘルニアは、かんとん(嵌頓)する可能性が高く、早めの診断と治療が必要です。