更新日:2022年3月8日
5. 膵癌の治療
- ガイドラインでは膵癌の治療のためのアルゴリズムが示されています。
- 診断確定した後、ステージ分類と切除可能膵癌、切除不能膵癌(局所進行、遠隔転移)、切除可能境界(ボーダーライン)膵癌にわけます。
- ボーダーライン膵癌とは膵臓周囲の主要動脈に半周以下にだけ接している場合や門脈に半周以上浸潤しても、その範囲が十二指腸を越えず再建が可能な膵癌のことをいいます。
- ステージI・IIの切除可能膵癌に対しては術前補助化学療法ののちに外科手術を行うことが推奨されていますが、レジメンや術前放射線治療の意義など、まだ課題が残されています。
- ボーダーライン膵癌に対しては手術を先行して行うと取り残す可能性が高いため、手術前に化学療法や放射線療法を行い治療効果を評価したうえで外科手術を行います。
- 切除不能膵癌に対しては化学療法もしくは化学放射線療法が行われます。近年は有効なレジメンの出現により化学療法や化学放射線療法後に奏功が得られ、切除可能となった患者さんに対しては積極的な外科手術が勧められ、このような手術をConversion surgery(コンバージョン サージェリー)といいます。
外科手術
- 切除可能膵癌の場合、領域リンパ節郭清を伴った外科手術が選択されます。
- 膵頭部癌の場合は膵頭十二指腸切除術、膵体尾部癌の場合は膵体尾部切除術が行われます。また、癌が膵臓全体に及ぶ場合は膵全摘術が選択されます。
- 癌が門脈に浸潤しているときは、安全に再建できるのであれば、合併切除します。
- 腹腔鏡手術:現在保険適応となっていますが、長期成績が不明であり、現在は一部の施設のみで行われています。
- 外科手術には以下の合併症が起こることがあります。
- 膵瘻(膵液瘻):膵臓の切離面から膵液が漏れること
- 腹腔内出血:漏れた膵液が血管を侵し、出血すること
- 腹腔内膿瘍:腹腔内に膿の溜まりができること
- 胃内容排出遅延:胃の蠕動運動が低下して、食べ物が胃から排出されなくなること
- 糖尿病:インスリンの分泌量が減るために発症する
- 胆管炎:膵頭十二指腸切除術の術後、胆管空腸吻合部の狭窄や、腸液が吻合部を通して胆管内に逆流したときに発生します
- 脂肪肝:術後の膵外分泌機能低下により脂肪肝を発症することがあります
- 脂肪便:膵液の分泌が減少することにより発症
- 下痢:膵臓や動脈周囲の神経を切除したときにおこります
- 切除不能膵癌で癌の消化管浸潤により腸閉塞を来した場合、消化管バイパス術が行われることがあります。また、胆管浸潤で閉塞性黄疸を来した場合は胆道バイパス術が行われることがあります。近年は内視鏡治療の進歩により、より低侵襲な内視鏡的ステント留置術が選択されることが一般的です。
出典:患者さんのための膵癌診療ガイドラインの解説
化学療法
- 現在膵癌に対する化学療法として、以下の抗癌剤が用いられています。
- FORLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法:フルオウラシル、イリノテカン、ホリナートカルシウム、オキサリプラチンを組み合わせた治療です。 フォルフィリノックス療法は強力な化学療法である反面、副作用が多い治療です。そのため、多くの施設で薬剤を減量したmodified FORLFIRINOX (モディファイドフォルフィリノックス)療法が行われています。
- ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法: フォルフィリノックス療法とともに膵癌の化学療法の中心となっています。フォルフィリノックス療法よりも副作用が少なく、有力な治療法のひとつとなっています。
- ゲムシタビン+エスワン療法:ゲムシタビンとエスワンを組み合わせた治療ですが、ゲムシタビン単独療法を上回る延命効果が得られませんでした。しかし、現在は切除可能膵癌に対する術前補助療法として有効性が報告され、行われています。
- 全身状態や年齢などからこれらの治療がむずかしい場合は、以下の治療が行われます。
- ゲムシタビン単独療法:古くから有効な薬剤がなかった膵癌の化学療法が、ゲムシタビンの出現によって飛躍的に改善しました。ゲムシタビンは生存期間の延長のみでなく、癌による症状を緩和する効果があります。
- エスワン単独療法:ゲムシタビン単独療法と比べて効果が同等であることが証明されました。
- ゲムシタビン+エルロチニブ療法:エルロチニブは分子標的治療薬という新しい薬で、当初は治療選択肢のひとつとして期待されていましたが、ゲムシタビンとの比較試験で、エルロチニブの上乗せ効果が認められましたが、その効果は10日に過ぎず、現在はあまり使用されていません。
- 近年、有効な化学療法の出現により、切除不能な膵癌が化学療法により切除可能になる場合が増えてきました。このような患者さんにはコンバージョン サージェリーが行われることがあります。
術前補助療法
- 膵癌に対しては、手術単独では癌の取り残しを完全に防ぐことができないために、手術前に化学療法もしくは化学放射線療法がおこなわれています。日本で行われた大規模な術前治療の臨床研究ではゲムシタビン+エスワン療法による術前補助療法の有効性が報告されました。その結果、ステージI・IIの切除可能膵癌に対してはゲムシタビン+エスワン療法による術前補助化学療法ののちに外科手術を行うことが推奨されていますが、まだ課題も多く『弱い推奨』となっています。
術後補助化学療法
- 膵癌切除後は術後補助化学療法を行うことにより生存率を延長させるため、行うことが推奨されています。
- 第一選択はエスワンの内服ですが、エスワンが内服できない場合はゲムシタビンによる化学療法が行われます。
6. 術後経過観察
- 膵癌の切除後は定期的に経過観察する必要があります。
- 腫瘍マーカーの測定と造影CTや腹部超音波検査などの画像診断が必要です。
- 期間としては、術後2年間は3~6か月ごと。それ以降は6~12か月ごとに検査を行い、少なくとも術後5年間の経過観察が必要です。膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や慢性膵炎などの膵癌の危険因子を有する患者さんは5年以降も経過観察することが望ましいとされています。