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学会会長挨拶

跡見 裕跡見 裕

(あとみ ゆたか)

学会会長

新年を迎えて

 新しい年を迎え,日本臨床外科学会会員の皆様に一言ご挨拶を申し上げます.

 医学・医療を取巻く状況は依然として厳しいものであります.従来より医師の労働環境については,長時間労働,休日を取れない勤務体制,当直明けの勤務など様々な問題点が指摘されておりました.近年,大学病院や公的病院に労働基準監督署の立ち入り検査があり,労働時間に関して厳しい指摘がされています.この流れは,政府が主導している働き方改革に関連した大きな問題となっています.また研修医について,新潟や東京などで時間外の長時間勤務による過労死があり,社会的にも大きく取り上げられました.研修としての医師は自己研鑽,研修の要素が強く通常の労働とは少し違う側面がありますが,過重な勤務体制を強要することは決してしてはならないことでしょう.米国ではメディカルスクール卒業後の3年間をレジデントとして研修しますが,彼らの勤務時間には様々なルール(80時間ルール;週の勤務時間は80時間以内,27時間ルール;連続勤務は27時間以内(1年目は16時間以内),8時間ルール;シフトとシフトの間は8時間あける)が決められています.この遵守具合を米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)がチェックしており,違反するとレジデントを採用できないなどの罰則があります.一方では指導医は勤務時間の規則はなく,個別契約で決めています.労働時間は国により異なっていますが,確かに日本は長いようです.病院常勤医の週あたりの勤務時間は,大学病院で64時間であり,特に診療以外に費やされる時間が17時間半を占めていますが,いずれにせよ長時間の勤務であるのが実態です.1970年に医師になった私達の世代は多くの外科医はほぼ毎日病院に出勤していました.365日受け持ちの患者さんの顔を見るのが外科医であると教えられ,またそれが当然のことと受け止めていました.ただ,そのことによる弊害もあったのでしょう.長時間勤務で判断ミスが起こりやすくなるなどは患者さんに直接影響を与えることです.

 医師の職業をどのように考えるのか.医師も労働の対価として賃金を得ていることからと労働者ですが,一方高度専門職として存在しています.日本の医学教育ではあまり重要視されませんが,英国などではProfessionalismを重視し,これについてしっかりとした教育がされています.

 以前医学教育におけるProfessionalismの講演を聞きました.講演の演者は英国人でしたが,医学教育で最も重要な分野はProfessionalismの涵養であると述べられました.専門職には,一定の資格・免許などにより特別な地位と独占性が認められ,それゆえ職業倫理の確立と尊重が求められます.医師はまさに,公益性,道徳性,専門性が強く求められる専門職です.ArnorldとSternらは,臨床能力・コミュニケーションスキル・倫理的・法律的理解の土台の上に立つ,卓越性・人間性・説明責任・利他主義の4つの柱でプロフェッショナリズムを支えていくと「定義」しています.労働者であり高度専門職としてどう活動していくのか.しっかりとした議論が必要ではないでしょうか.

 日本臨床外科学会は,外科医療環境,地域医療など外科臨床に関わる問題に取り組んできました.幸いにして本学会の会員数は着実に伸び,2万人になろうとしております.また昨年の高山会長による学術集会も盛況でした.7千名近い参加者があり,またアジア外科学会の共催も成功裏の終えることが出来ました.日本臨床外科学会が今後より飛躍するために,私は以前より支部のより一層の充実が最大に課題と考えておりました.現在では東京都に本部があり,その他の道府県全てに支部を設立することができましたので,これからはさらに支部の充実を図りたいと考えております.地域に根ざした医療を把握しているのは,各支部であるはずです.支部を中心としてアンケート調査を定期的に行い,学会の運営に反映させていくつもりです.

 本会をさらに発展するべく,学会員の皆様の暖かいご支援とご指導をお願い申しあげます.

(2018年1月)