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日本臨床外科学会雑誌 第79巻7号 掲載予定論文 和文抄録


第79回総会会長講演

いつも手術を考える。―細心と革新の神髄―

日本大学医学部消化器外科

高山 忠利

 手術は技術(Art)と科学(Science)の二つの側面から成っている。技術を支える基本手技は、常に高い精度をもって完遂させる必要がある。その精度を獲得するには日々の鍛錬に勤しみ、条件反射的に身体に覚えさせるしかない。外科医は誰でも手術が巧くなりたいし、他人から手術が巧い外科医だと言われたい。私たち外科医の第一義は、100%手術であり、365日手術のことを考え・悩み・工夫しなければならない。
 手術の基本手技をマスターしたら、先輩の手術をよく見ることである。自分が執刀しているかのように一連の術野が頭に描けなければ、執刀医になる資格はない。予想図がイメージできたら、次にそれを記録に残すことが極めて重要である。教授になっても、手術ノートはいまでも書き続けている。肝臓外科の術式に関する多くの英文論文を発表してきたが、そのネタはこのノートから誕生した。きれいな手術記録が書ける外科医に手術が下手な外科医はいない。これは私の長い経験が教える真実である。
手術の本質はその美しさにある。美しさを保証するのは、手技の的確さ・進行の円滑さ・術野の完成度の三つの要素(高山のトリアス)である。手術は水が流れるように、一定の規律をもって進行することが重要である。一連の手術において、小説の起承転結のように、各種の手技には重み付けがある。相対的に軽い場面ではミスなく、重い場面では慎重に、その機微を理解している外科医の手術は、結果として他人が美しいと感じるのである。出血量を可能な限り抑えた美しい手術が完成されれば、周術期が荒れることは決してない。
 次に、手術が科学であることを知って欲しい。手術は、本質的に頭脳を駆使した知的行為である。手術ではなく脳術であることを理解できれば、一廉の外科医である。多数の手術経験を重ね、蓄積したデータを解析し、得られた成果の中に手術の意義と反省を認識できれば、その手術を科学として捉えたことにつながる。その過程で、きっと新しい発想が現れ、結果として独創的な術式が生まれる。
肝臓外科医になって30年経つが、手術を完璧に理解するという目標には、道半ばである。手術を技術と科学の集大成として考える下地がやっとできた段階にすぎない。それほど手術は深淵で雄大である。本学会が、細心(meticulous)で革新(innovative)の手術を学習する機会になれば幸いである。

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原著

滑脱型外鼠径ヘルニアの診断と腹腔鏡手術の工夫

済生会松阪総合病院外科

田中  穣 他

 【目的】滑脱型外鼠径ヘルニア(以下,滑脱型)の診断と腹腔鏡手術(以下,TAPP)について検討した.【方法】TAPPを行った片側の外鼠径ヘルニア317例を滑脱群 27例と非滑脱群290例に分け,さらに腹腔鏡所見から滑脱型を臓器がヘルニア嚢(以下,sac)の一部を形成する標準型21例とsac全面に臓器が癒合する全面型6例に分類した.【結果】CTの結腸脱出所見は滑脱群で全例にみられ,非滑脱群の6%より高率であった.標準型の10例はヘルニア門の環状切開が可能であった.残る11例と全面型6例では環状切開は困難で,腹側で精管と性腺血管を同定後,sac背面を鼠径床から剥離するヘルニア門上縁切開法(以下,SMI)を行った.SMIでは術中損傷はなく,手術時間は環状切開と有意差がなかった.【結語】CTの結腸脱出所見は滑脱型の術前診断に有用で, SMIはTAPPで環状切開が困難な場合に役立つ方法である.

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症例

MRIにてリング状造影効果を認めた乳腺乳頭部腺腫の1例

愛媛大学医学部附属病院乳腺センター

山下 美智子 他

 乳房造影MRIにおけるリング状造影効果は悪性病変を示唆する所見の一つである.今回我々は,リング状造影効果を有する乳頭部腺腫の1例を経験した.症例は39歳女性,乳頭の硬結を主訴に当院を受診した.視触診では乳頭内に7mm大の硬結を認め,超音波検査では同部に低エコー腫瘤を認めた.造影 MRIでは,乳頭内にリング状造影効果を有する腫瘤を認め,緩徐に造影されるパターンを呈した.同部に対し細胞診を施行し,異型のない乳管上皮が採取された.乳頭部腺腫を疑い,診断的治療目的に乳頭横切開による乳頭内腫瘤摘出術を施行した.病理診断は乳頭部腺腫であった.術後の整容性は非常に良好であった.乳癌のみならず,乳頭部腺腫においても造影MRIでリング状造影効果を来すことがあり,過剰診断・治療とならないよう本疾患を念頭におき診断・治療を行なっていくことが重要である.

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梗塞壊死をきたした乳腺充実腺管癌の1例

王子総合病院外科

細井 勇人 他

 症例は83歳、女性。乳癌検診で腫瘤を指摘され当科を受診。左乳房EB領域に3cm大で弾性硬の腫瘤を触知した。MMGでは左ML領域に円形で境界不明瞭な高濃度腫瘤影を認めた。乳腺USでは同部位に径35×28mmの低エコー像を認めた。針生検組織では浸潤性乳管癌と診断し、左乳房切除術および腋窩郭清を施行した。病理結果は、腫瘍の中心部は広範な凝固壊死に陥っており、辺縁にわずかに異型細胞が観察されるのみであった。生検標本を併せた評価にて、腋窩リンパ節に微小転移を伴う充実腺管癌と診断した。核グレードは2、ER・PgRは共に陽性、HER2は陰性であった。術後は、患者希望により無治療にて経過観察としたが、1年9ヶ月目に多発肺転移を認めたため、内分泌療法を開始しすると画像上、完全消退を得た。術後5年を経過した時点で再発の所見はなく、同治療を継続中である。
 今回、広範な梗塞壊死を起こした乳癌を経験したので報告する。

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EVAR後の遠隔期エンドテンション経過観察中に破裂した腹部大動脈瘤の1例

新潟市民病院心臓血管外科

佐藤 裕喜 他

 症例は67歳男性。3年半前に腹部大動脈瘤切迫破裂で腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EVAR)を施行、術後2年頃より瘤の増大を認めた。瘤内への造影剤の流入(エンドリーク)を認めなかったがその後も瘤は増大(エンドテンション)し、術後3年には2cmほど瘤が増大し開腹手術の方針としたが、待機中にステントグラフト脚移動により腹部大動脈瘤が破裂しショック状態となり当院に搬送された。緊急で腸骨動脈ステントグラフト内挿術を施行して救命した。今回EVAR後遠隔期エンドテンション経過観察中に瘤が破裂し救命した1手術例を経験したため報告する。

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骨病変を伴う肺Langerhans 細胞組織球症の1例

JCHO北海道病院外科

正村 裕紀 他

 肺ランゲルハンス細胞組織球症は,ランゲルハンス細胞の増殖と浸潤を組織学的特徴とするまれな疾患である。症例は43歳男性。喫煙は20本/20年。健康診断の胸部X線検査で両肺に粒状影があり粟粒性結核を疑われ当院受診。胸部CTでは、両肺上葉優位でび漫性の粒状構造と8mm以下の結節および多発性の嚢胞陰影を認めた。またCTとMRIで右腸骨に35mmの骨溶解性病変を認めた。画像所見より肺ランゲルハンス組織球症を疑ったが経気管支生検、気管支肺胞洗浄では確定診断に至らなかったため胸腔鏡下右肺生検をおこなった。病理結果は気腫肺を背景に3-5mmの結節が散在し、細気管支周囲の好酸球浸潤と硝子瘢痕化にサルコイドーシス様の類上皮細胞の集団を認めた。免疫染色ではこれらの細胞はS-100蛋白陽性であり、ランゲルハンス細胞組織球症と診断した。禁煙2か月後には肺病変、骨病変の縮小を認めた

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炭酸ガス送気併用胸腔鏡下に摘出した胸腺MALTリンパ腫の1例

済生会山口総合病院外科

神保 充孝 他

 症例は41歳、女性。検診の胸部X線で異常を指摘され、精査の結果、縦隔腫瘍と診断され当科紹介となった。胸部CTでは、前縦隔の広範囲に境界明瞭で内部がやや不均一な腫瘤を認めた。MRIでは嚢胞成分と充実成分の混在する腫瘤と考えられた。既往歴にシェーグレン症候群を認めることから、多房性胸腺嚢腫を疑い、診断および治療のため手術を施行した。手術は、両側からのアプローチで胸腔鏡下に行う方針とし、右胸腔から炭酸ガス送気下に摘出を行った。結果的に右側からのアプローチにより完全切除が可能であった。病理組織検査の結果、腫瘍は胸腺MALTリンパ腫と診断された。術後経過は良好で術後4日目に退院となった。

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右肺原発ciliated muconodular papillary tumor の1例

中国労災病院外科

小野 紘輔 他

 症例は75歳女性.検診の胸部CTにて右肺S6に6mm大の結節影を認め,7年間の経過で6mmから8㎜と緩徐な増大を示した.腫瘍マーカーはproGRPの軽度上昇を認めるほかは異常なく,FDG-PETでは軽度のFDG集積(SUVmax=1.9)を認めた.腺癌,カルチノイド,肉芽腫性病変を疑い診断治療目的に手術を行う方針とし胸腔鏡下右肺下葉切除術を行った.病理組織学的には,線毛円柱上皮,杯細胞、基底細胞が肺胞壁を置換するように乳頭状に増殖する像を認め,Ciliated muconodular papillary tumor(CMPT)と診断した.CMPTは,報告例が少なく,良悪性の位置づけに一定の見解がない稀な疾患である.今回われわれは,本疾患の1例を経験したため文献的考察を含め報告する.

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右側大動脈弓を伴った右上葉肺癌の1例

仙台厚生病院

平山  杏 他

 右側大動脈弓は約0.1%の出現頻度とされる稀な先天性奇形である。さらに、右側大動脈弓を伴った肺癌手術症例の報告例は少なく、特に右肺癌の場合には上縦隔リンパ節郭清において右側大動脈弓の存在・反回神経の走行など留意すべき点が多く、術前及び術中の充分な検討・観察が必要である。また、症例の蓄積、共有が求められると思われる。今回我々は、右側大動脈弓を伴う右上葉肺癌の1例を経験したため、既報の13例と共に考察を報告する。

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小腸バイパス術のみを施行した冠動脈バイパス術後横隔膜ヘルニアの1例

香川労災病院外科

永井 康雄 他

 症例は84歳,女性.20年前に狭心症に対して左内胸動脈(left internal thoracic artery:LITA)および,右胃大網動脈(right gastro epiploic artery:RGEA)をグラフトとした冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)を施行されている.腹痛の精査で施行した腹部CT検査ではCABGの際にRGEAの経路として作成された横隔膜の小孔を通して小腸が陥頓していることが確認された.胸部3D-CTAおよび心臓カテーテル検査ではRGEAグラフトの血流は良好で,冠血流はRGEAグラフトに大きく依存していることが判明した.ヘルニア還納時にグラフトを損傷した場合,致命傷となる可能性が高いと判断し,手術は小腸バイパス術のみを施行した.術後5ヵ月の経過でイレウスの再発や胸部症状の出現を認めていない.

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胃底部漿膜パッチ術が奏効したアルカリによる急性期食道穿孔の1例

大阪府立中河内救命救急センター

加藤  昇 他

 症例は54歳、女性。自殺目的でアルカリ性漂白剤であるハイター®の原液を約300ml飲用し、嘔吐を1回伴った。約1時間後の救急搬入時、軽度の乳酸アシドーシスと胸部単純X線で広範な縦隔気腫を認めた。CTで食道炎による壁肥厚と縦隔気腫を認め、内視鏡検査で食道胃接合部近傍の下部食道に壊死穿孔を認めた。腐食性食道炎の急性期穿孔であり、穿孔部の閉鎖が必要であったが、壊死部の境界が不明瞭で更なる拡大が危惧されたため、fundoplicationを応用した胃底部漿膜パッチで穿孔部を中心に広い範囲を被覆した。第27病日食道造影で漏出や狭窄像を認めず、第44病日内視鏡検査で穿孔部は粘膜が進展して閉鎖しているのを確認した。
 アルカリによる腐食性食道炎における急性期穿孔は少ないが、重篤な病態である。壊死部の境界が不明瞭なためデブリドメントを要する縫合閉鎖が困難であり、胃底部漿膜パッチが有用と考えられた。

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腹腔鏡下切除した最大径12cm食道GISTの1例

聖隷三方原病院外科

木村 泰生 他

 症例は69歳男性.検診で施行された胸部単純X線検査にて,異常陰影を指摘された.精査目的に行われた造影CTにて,下部食道左側壁に接する径10x10cm大の不均一に造影される充実性腫瘤を認めた.MRIでは,T1強調画像で一部高信号を示し,腫瘍内出血が示唆された.超音波内視鏡下穿刺生検を行ったところ,免疫染色でc-kit陽性を示す核分裂像の乏しい食道Gastrointestinal stromal tumor(以下 ,GISTと略記)と診断された.手術は腹腔鏡下に経横隔膜アプローチで行い,下部食道切除および全胃管を用いた胸腔内食道胃吻合(観音開き法)にて再建を行った.病理組織学的所見では,c-kit陽性,Mitosisが 62/50HPFでFlecher 分類の高リスク食道GISTと診断された.術後経過は良好で,現在imatinibによる補助化学療法施行中である.

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複合型食道神経内分泌細胞癌の1例

安城更生病院外科

田中  綾 他

 症例は62歳の男性で,2012年7月,嚥下困難感を主訴に受診し,精査にて胸部中部食道神経内分泌細胞癌(cT3N1M0 cStageIII)と診断された.シスプラチン/イリノテカンによる化学療法が計4クール施行された.化学療法後の効果判定では,リンパ節病変は完全奏効と判定した.上部消化管内視鏡検査にて主病変は瘢痕化し,その近傍に不染帯のみを認めた.生検では扁平上皮癌成分のみで,神経内分泌細胞癌成分は消失していた.食道神経内分泌細胞癌の複合型で扁平上皮癌成分の遺残と診断し,2013年4月,腹臥位胸腔鏡下食道亜全摘術+3領域リンパ節郭清術を施行した.切除標本の病理組織所見でも,原発巣に神経内分泌細胞癌の遺残はなく,扁平上皮癌のみが認められたが,郭清リンパ節には神経内分泌細胞癌の転移を認めた.術後4ヵ月で神経内分泌細胞癌が脳に転移し,その後の集学的治療の甲斐なく診断後1年4ヵ月で永眠された.

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血液凝固第XIII因子製剤投与が有効であった胃切除術後難治性乳糜腹水の1例

市立四日市病院外科

砂川 祐輝 他

 症例は67歳、男性。胃前庭部癌に対し幽門側胃切除術を施行した。術後3日目に食事を開始したがドレーン排液が白濁した。絶食で速やかに漿液性となり、ドレーンの白濁以外に腹部症状はなく、無臭性・白色乳状液であることから乳糜腹水と診断した。絶食、中心静脈栄養管理とし、酢酸オクトレオチド酢酸塩の投与を行ったが改善しなかった。血液凝固第XIII因子活性が62%と低値であったため、術後24~28日目に血液凝固第XIII因子製剤を投与した。術後31日目に食事を再開したが、ドレーン排液の白濁化は認めず、その後も腹水増加を疑う所見を認めず、乳糜腹水は改善した。
 乳糜腹水は腹部手術後の合併症の1つで、その治療に難渋することがある。乳糜腹水に対し血液凝固第XIII因子製剤を投与した報告は少ない。今回我々は、血液凝固第XIII因子製剤の投与により改善した胃癌術後の乳糜腹水の1例を経験したため報告する。

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AdachiIII型腹腔動脈異常を伴う胃癌の1例

滋賀県立総合病院外科

鎌田 泰之 他

 Adachi Ⅲ型腹腔動脈走行破格を有する早期胃癌の症例に対して、腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行したので報告する。症例は75歳の男性、胃体下部小弯後壁の早期胃癌の診断で、術前multidetector-row computed tomography(MDCT)を施行したところ、Adachi Ⅲ型の腹腔動脈走行異常を指摘された。Adachi Ⅲ型は腹腔動脈と上腸間膜動脈が共同幹を形成し、左胃動脈が腹部大動脈から独立して分岐するタイプである。手術は腹腔鏡下幽門側胃切除術D1+郭清を施行し、術中もMDCTと同様の血管分岐を確認した。術前MDCTにより膵上縁の血管走行を把握し、メルクマールとなる動脈とその神経前面の層をトレースすることで、安全に手術施行可能であった。

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Micropapillary componentsを伴う胃癌の3例

名古屋第一赤十字病院一般消化器外科

清水 大輔 他

 (症例1)76歳、男性で、胃前庭部の腫瘍に対し幽門側胃切除を施行した。腫瘍は3×3cmの2型腫瘍で、micropapillary components (MPC)を伴った乳頭腺癌と診断された。術後4年3か月無再発生存中である。(症例2)76歳、女性で、噴門から胃体上部の腫瘍に対し胃全摘を施行した。腫瘍は8×6cmの2型腫瘍で、micropapillary carcinomaと診断された。術後3か月で肝転移・腹膜播種再発し、術後6か月で死亡した。(症例3)69歳、女性で、食道胃接合部の腫瘍に対し胃全摘を施行した。腫瘍は7×5cmの1型腫瘍で、MPCを伴う腺癌と診断された。術後4年無再発生存中である。MPCを伴う胃癌の報告は比較的少なく、その頻度・特徴・治療成績は報告者により様々である。その臨床病理学的特徴を明らかにするためには、正確に診断され、集積される必要がある。

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腹腔内出血をきたした卵黄血管遺残の1例

綾部市立病院外科

多加喜 航 他

 症例は67歳、男性。就寝中に突然の腹痛を自覚し受診。造影CTで虫垂左側に造影剤の漏出を伴う血腫を認め、腹腔内出血の診断のもと緊急開腹手術を行った。術中所見にて、回腸末端から10cm口側の回腸間膜に索状物を認め、同部より拍動性に出血していたため、これを結紮止血した。腹壁側を観察すると、右内側臍ひだから分枝し腹腔内へ下垂する索状物の断端を認めた。出血源と考えられた回腸間膜の索状物と類似しており、同索状構造内の血管の破綻が腹腔内出血をきたした原因と考えられた。解剖学的観点から破綻した血管は卵黄血管遺残と考えられた。
 過去の報告では、卵黄血管遺残はMeckel憩室を高率に合併するとされるが、本症例では認めなかった。卵黄血管遺残はイレウスを契機に発見されることが多いとされるが、腹腔内出血をきたした症例は未だ報告されていない。今回、我々は 卵黄血管遺残が非外傷性腹腔内出血の原因となった非常に稀な症例を経験したので報告する。

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水疱性類天疱瘡に併発した低異型度虫垂粘液産生腫瘍の1例

市立東大阪医療センター消化器外科

堺  貴彬 他

 症例は79歳女性.水疱性類天疱瘡に対しプレドニン30㎎を内服中にT-SPOT陽性であったため,結核の鑑別目的に胸腹部CTを施行したところ,回盲部に辺縁明瞭平滑な6㎝大の低濃度腫瘤を認めた.腹部症状は無く,採血ではCEAが高値を示していた.虫垂粘液腫や虫垂癌を疑い,回盲部切除術(D2郭清)を行った.病理組織学検査所見は,上皮部分に低異型度の腫瘍性の高円柱状の上皮細胞が小乳頭状に嚢胞内腔に向かって突出していた.嚢胞壁は固有筋層が不明瞭になり,菲薄な線維性結合組織のみからなる部位が多く,低異型度虫垂粘液腫瘍と診断した.類天疱瘡に悪性腫瘍を合併することは多いが,虫垂原発腫瘍を合併した症例報告はない.今回,水疱性類天疱瘡の経過観察中に低異型度虫垂粘液腫瘍を併発した症例を経験したので文献学的考察を加えて報告する.

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腸管囊胞様気腫症を先進部として反復した腸重積の1例

大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院外科

川島 龍樹 他

 腸管囊腫様気腫症(Pneumatosis cystoides intestinalis;PCI)は比較的まれな疾患である.一般的に臨床症状は軽微であるが,まれに腸重積の原因となりうる.症例は17歳の男性で,PCIを先進部とした腸重積を繰り返していた.保存的治療および下部内視鏡下に整復を得ていたが,同様の経過を繰り返すことから待機的に腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.肉眼的には粘膜下に隆起性病変が多発しており,病理組織学的検査でPCIの確定診断を得た.PCIと腸重積の合併はまれであるが,腸重積合併例は特発性PCIが多く,保存的治療のみで完全寛解を得ることは困難である.腸重積の原因を除去できないため再発の可能性は高く,気腫が残存する場合には待機的手術が必要であると考えられた.

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自己免疫性肝炎を有し術後化学療法中に肺結核を発症した直腸癌の1例

網走厚生病院外科

中本 裕紀 他

 症例は78歳男性. 自己免疫性肝炎に対してプレドニゾロン10mg/日を内服中であった. 直腸癌に対して腹腔鏡下Miles手術を施行しT3, N1, M0, stageⅢaと診断した. 術後1年目CTで遠隔転移を認めBevacizumab+FOLFILI療法を開始した。9コース後に発熱を主訴に来院. 肺炎と診断し抗菌薬治療を開始した. 症状改善なく入院11日目に喀痰による抗酸菌染色が陽性となり, 結核治療施設に転院とした. 転院後に抗結核薬の内服を開始し, 2か月後に喀痰塗抹検査が陰性になり退院となった. 抗結核薬の内服は合計半年間を予定している.
 潜在性結核感染を背景に化学療法, ステロイド内服等により免疫抑制を生じ結核症再燃を来たした可能性がある. 日常診療時に結核感染を鑑別におき, 結核発症リスクを有する合併症・薬剤を把握し, 定期的な検査・予防的治療の検討を行う必要がある.

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腹腔鏡下に胃転移を同時切除した直腸悪性黒色腫の1例

兵庫県立がんセンター消化器外科

大山 正人 他

 症例は63歳、女性。下血を主訴に前医を受診し、生検にて直腸悪性黒色腫と診断され、当院へ紹介となった。下部消化管内視鏡検査では肛門管から下部直腸にわたる約80mm大で黒色調の半周性隆起性病変を認めた。CTでは直腸に造影効果を有する腫瘤性病変と、胃体部大弯にも26mm大の腫瘤性病変を認めていた。上部消化管内視鏡検査でも黒色調胃腫瘍をみとめ生検を行い、病理学的にも直腸悪性黒色腫の同時性胃転移と診断した。皮膚悪性黒色腫のガイドラインに準じて、原発巣、転移巣ともに切除可能と判断し、鏡視下に手術を施行した。術中所見で翻転部から前壁に黒色調の腫瘤を認めたが膣への浸潤はなく、腹会陰式直腸切断術と胃部分切除を施行した。直腸悪性黒色腫の同時性胃転移手術症例はまれであり、文献的考察を加え報告する。

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肺転移を切除したfibrolamellar hepatocellular carcinomaの1例

平塚市民病院消化器外科

松本 旭生 他

 症例は45歳、男性。検診で肝機能障害を指摘され近医を受診し腹部超音波検査で8 cmの肝腫瘍を認め当院にて精査を行った。HBs抗原とHCV抗体は陰性でAFPとPIVKA-Ⅱは著明に上昇し、画像検査でfibrolamellar hepatocellular carcinoma(以下、FLHCCと略記)を疑い、肝S5/6亜区域切除を施行した。病理組織学的には索状構造をとって増殖した腫瘍胞巣が密で厚い層状の膠原線維束に取り囲まれたFLHCCに特徴的な所見であった。腫瘍マーカーが漸増し左肺上葉に増大する単発性の小結節を認め、術後22か月に肺部分切除を施行し病理組織学的にもFLHCCの転移と診断した。現在は新たな再発を認めず、初回術後50か月の生存を得ている。FLHCCは通常の肝細胞癌と異なる臨床病理組織学的特徴を持つ稀な原発性肝癌であり、積極的な外科切除が奏功した1例を経験したので文献的考察を加え報告する。

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肝切除後の早期肝内多発再発に肝動脈化学療法が著効をみた肝細胞癌の1例

筑波記念病院外科

佐々木 量矢 他

 61才,男性.未治療の慢性B型肝炎があり,高血圧にて通院中の近医よりAFP高値のため紹介となった.精査にて,肝硬変に加え肝S4に門脈左枝と接し一部は内腔に突出する肝細胞癌(cT1N0M0)を認め,肝左葉切除術ならびに胆嚢摘出術を施行した.病理検査では,中分化型を主体に低〜未分化型成分を混ずる単純結節型肝細胞癌と診断された(pStage I).術後に低下した腫瘍マーカーが術後5ヶ月目に急上昇し,残肝全体に動脈血流が豊富な多発再発腫瘍が確認される一方,肝外転移は認められなかった.肝動脈化学療法を選択し,シスプラチンと5FUを持続投与したところ著明な効果が得られ,2回目の投与後には腫瘍マーカーは正常化し,再発腫瘍の消失をみた.その後のエンテカビル投与によりHBV DNAは陰性化した.本症例は,現在までの術後約9年間,追加の抗癌治療なく無再発にて経過しており,若干の考察を加えて報告する.

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胃管温存膵頭十二指腸切除を行った食道癌術後91歳十二指腸乳頭部癌の1例

大阪警察病院外科

古川 健太 他

 症例は91歳、女性。既往歴として75歳時に食道癌に対する食道亜全摘・胸骨後胃管再建術がある。閉塞性黄疸の精査目的に当院を受診し、精査の結果十二指腸乳頭部癌と診断された。術前画像検査にて、胃管血流を温存した膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;PD)が可能と判断した。また、超高齢者ではあるもののADLやPSなど全身状態が保たれており、耐術可能と判断し手術を施行した。
 高齢化社会の進行や手術成績の向上により、今後本例のような他臓器癌術後の高齢者に対するPDなどの高難度手術症例が増加することが予想される。高齢者に対する手術を含む治療方針の決定には、根治性や手術侵襲、患者状態、社会背景などを総合的に判断することが重要である。
 超高齢者に発症した食道癌術後の十二指腸乳頭部癌に対し、胃管を温存したPDを経験したため、文献的考察を加え報告する。

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低分化型腺癌成分を広範に伴う膵退形成癌の1例

東京医科大学茨城医療センター消化器外科

田子 友哉 他

 症例は73歳,女性.左季肋部痛を主訴に精査加療目的で入院となった.腹部造影CT検査で膵頭部に20 mm大の乏血性腫瘤と末梢の主膵管拡張及び腫瘤による門脈の圧排像と,MRI検査で膵頭部腫瘤と主膵管の途絶を認め,CA19-9 254.3 U/mlと腫瘍マーカーの上昇を認めた.以上より,膵頭部癌の診断で全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術+門脈合併切除を施行した.病理組織学的に,腫瘍の多くを低分化型腺癌の成分が占め,一部に多形細胞型及び紡錘細胞型退形成癌の成分を認め,形態的には類上皮血管肉腫に酷似していた.補助化学療法としてS-1療法を施行するも,術後75日目に多発肝転移再発及び癌性腹水を認め,術後88日目に原病死となった.本症例は,腺癌から退形成癌への移行像を認め,その発生機序を推察する上で有用であると考えられたため報告する.

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副腎に発生した悪性PEComaの1例

JA北海道厚生連旭川厚生病院外科

乾野 幸子 他

 Perivascular epithelioid cell tumor(PEComa)は血管周囲に存在し多分化能を有するperivascular epithelioid cell(PEC)に由来する間葉系腫瘍の一群である.症例は65歳女性.胸やけを主訴に受診.腹部CT検査で胃背側に径約7cmの境界明瞭・内部不均一の腫瘤を認め,血管造影検査でmain feederは左腎動脈と副腎動脈であった.PET検査では異常集積を認め手術方針となった.術中所見で腫瘍は左副腎に近接しており左副腎原発と考えられた.病理所見は紡錘状細胞が豊富な胞体を有する多核巨細胞などの変化を示し増殖しており,HMB-45陽性,MelanA陽性,MIB1陽性率高率で悪性 PEComaの診断に至った.術後2ヵ月で多発肝・肺転移出現し術後6ヵ月で死亡した.副腎原発悪性PEComaの1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

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腹腔鏡下にIPOM-Plus法を施行した肋骨弓下腹壁瘢痕ヘルニアの1例

NTT西日本大阪病院外科

大西  直 他

 症例は85歳女性,急性胆嚢炎に対する開腹手術より1年半後に右肋骨弓下の膨隆を主訴に受診.腹部単純CTにて前回の切開創直下に15.0cm×13.5cmの腹壁欠損を認めたため肋骨弓下腹壁瘢痕ヘルニアと診断され,腹腔鏡下修復術(IPOM-Plus)を行うこととなった.まず腹腔鏡下にヘルニア門周囲の癒着を剥離したのち前方アプローチで腹壁欠損部を縫合閉鎖した.メッシュの固定は鏡視下にタッキングと筋膜貫通縫合によって行ったが,特に肋骨弓とヘルニア門との間の狭い領域への固定に注意を払い,肋骨弓より頭側には固定を行わなかった.肋骨弓下腹壁瘢痕ヘルニアは修復術が難しいと言われるが比較的まれで,これまで本邦では修復術の報告がなかった.我々が行なったIPOM-Plus法は安全で適切であると考え報告した.

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