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一般のみなさま
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万代 恭嗣会員(東京山手メディカルセンター)撮影
2015年10月 秋の天風境

6) 医療の崩壊を食い止めるために、何をなすべきか?

A) 医療費の総枠規制を撤廃し、診療報酬を適正化せよ

高齢者の増加や、医学・医療技術の進歩などを無視して、このまま医療費の総枠規制や、医療費の削減政策が続けられれば、わが国の医療も英国のように崩壊をせざるを得ないでしょう。崩壊はすでに始まっています。一旦崩壊してしまえば、再建することはほとんど不可能です。それで本当に良いのか、決めるのは国民の皆さんです。

さて、医療の崩壊を食い止めるために、まず必要なことは医療費の総枠規制を撤廃し、診療報酬を適正化することです。平成22年度の診療報酬改定で、2200億円の医療費削減が中止され、8年ぶりに僅かですが診療報酬が増加され、特に産科、小児科、救急、外科系手術などの診療報酬が上がったことは評価されます。手術報酬の決定に初めて外保連試案が参考にされたことも今後に向けて大きな一歩となりましょう。

B) 医療費の無駄を防止せよ

診療報酬の適正化と同時に必要なことは、医療費を効率的に使用し,出来るだけ無駄を省くことです。

先に述べたように、初等、中等教育で健康や医療についての教育を充実して、国民の健康維持に対する意識を高めることは生活習慣病の予防や、疾病の早期発見に繋がり、長い目で見れば国民医療費の減少に大いに役立ちます。病気の予防は治療よりもはるかに費用対効果が高いのです。

救急車で来院する患者の半数は救急車を必要としない軽症患者です。安易な受診を控え本当に病院が必要な患者さんに医師が集中できるように国民が協力することも重要でしょう。

薬剤費や医療材料費を減らすために厚労省もようやく重い腰を上げていますが、先に述べたようにまだまだ十分ではありません。先発医薬品やジェネリック薬品、輸入医療材料の価格はいまだにアジアの近隣諸国と比べても高いままです。少なくとも近隣のアジア諸国並みにすべきでしょう(表4)。

表4 カテーテル等の内外格差表4 カテーテル等の内外格差

もうひとつ重要なことは、医療費の効率的使用を制度的にも検討することでしょう。国民医療費は政府が言うように急速に増えているわけではありませんが、確実に増え続けています。国の予算にも限りがあるので、これを効率的に使う努力が必要です。

国民皆保険制度を実施している英国では、NICE(Naional Institute for Health and Clinical Excellence, 国立医療評価機構)が新薬の保険適用について客観的な評価に基づいて、段階的な推奨を行っています。最近、わが国ではドラッグラグやデバイスラグが問題となり、特に癌の新薬(分子標的薬)の保険への早期導入について患者さんや、家族からの希望が大変に強いようです。しかし、治療の費用対効果を考えるとこれらの癌の新薬は大変に効率が悪いのです。これらの新薬のほとんどは癌を治癒させるものではなく、せいぜい10人中2人か3人の生命予後を2,3カ月程度延長させるという統計学的な有意差があると言うにすぎないのです。肺がんに対するイレッサの例にもみられるように致命的な副作用もまれではありません。これらの事実はマスコミでもどういうわけかあまり伝えられていません。

国民皆保険制度を実施しているカナダ、オーストラリア、ドイツ、フランス、韓国、台湾などでも英国のNICEと同様の組織があって、費用対効果の検討をはじめています。

わが国の医療費は人口の高齢化や、新技術、新薬の導入によって毎年5,000億円程度増加しています。どこかで歯止めをかけなければ、やがて国民皆保険制度は破綻せざるをえません。

これまで自民党政府はやみくもに医療費を削減する乱暴な政策を続け、これが現在の地域医療の崩壊を招いたのですが、民主党の政府になってこれが改められるか否かは今の時点ではまだ判りません。

予算にも医療資源にも限りがあるので何らかの歯止めは必要です。新しい技術や新薬の保険適用に当たってはわが国でも英国のNICEのような組織をつくって費用対効果検討が必要な時が来ているように思われます。
(2006年9月、外保連ニュース第5号を2011年6月 一部改訂)

(参考)出月康夫:日本の医療を崩壊させないために インターメディカ社 2005
宇沢弘文、鴨下重彦(編):社会的共通資本としての医療 東京大学出版会 2010
外保連:日本の医療技術はすぐれている 外保連 2011