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一般のみなさま
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万代 恭嗣会員(東京山手メディカルセンター)撮影
2016年11月 嵯峨野竹林

更新日:2019年9月6日

5.治療

肝細胞癌

2017年に改変された肝癌診療ガイドラインの治療アルゴリズムに基づいて治療方針が決定されます。肝細胞癌治療アルゴリズムでは腫瘍の数、腫瘍の大きさ、肝予備能、血管や胆管などへの浸潤の有無、肝外転移の有無、の5因子に基づいて推奨治療が選択されます。肝細胞癌に対する治療には手術、穿刺局所療法、肝動脈塞栓療法、抗癌剤、肝移植があります。Child-Pugh分類がAまたはB、肝臓に腫瘍が限局しており、血管や胆管への浸潤がなく、個数が3個以下で、3cm以下の場合にはラジオ波熱凝固療法が、3cmを超える場合には手術の適応となります。また、門脈という血管の浸潤がある場合でも、末梢の細い分枝への浸潤の場合は手術が推奨されています。Child-Pugh分類がAまたはB、肝臓に腫瘍が限局していても、腫瘍の個数が4個以上の場合や、手術の適応とならない血管浸潤がある場合には肝動脈塞栓療法や抗癌剤による治療が選択されます。肝臓外に転移を認める場合には抗癌剤による治療を行います。上記の治療後に再発をきたした場合にも、同様のアルゴリズムで治療を行います。

図7 肝癌診療ガイドライン2007年版の治療アルゴリズム

図7 肝癌診療ガイドライン2007年版の治療アルゴリズム

手術

全身麻酔下に開腹をして肝細胞癌を切除します。肝細胞癌は、癌病巣の近くにある門脈の枝(担癌門脈枝)に入り込んで転移しやすいことが知られています。そのため、癌病巣を切除するだけでなく、癌病巣の周辺にある担癌門脈枝を切除することによって根治性が高まります。これを系統的肝切除と呼びます(図8)。手術の前にICG検査と予定肝切除量の測定を行い、術後に肝臓の容量不足にならないような肝切除を行います。また、近年の腹腔鏡下手術の普及から、5cm以下、単発で特定の場所(外側区域、肝前下領域(S2、3、4、5、6)に存在する腫瘍では腹腔鏡を用いて肝切除を行うこともあります。肝細胞癌が肝臓以外の臓器に転移した場合の一般的な治療は薬物療法ですが、肝臓の病変がコントロールされている場合の個数の限られた肺転移、リンパ節転移、腹膜転移に対して手術が行われることもあります。

図8 系統的肝切除 図9 系統的肝切除を行った切除後の肝臓 図10 ICG蛍光法を用いた肝細胞癌リンパ節転移手術(国立国際医療研究センター肝胆膵外科ホームページより)

図8(左) 系統的肝切除

図9(中央) 系統的肝切除を行った切除後の肝臓

図10(右) ICG蛍光法を用いた肝細胞癌リンパ節転移手術(国立国際医療研究センター肝胆膵外科ホームページより)

穿刺局所療法

肝臓内の腫瘍を皮膚から細い針で穿刺し、針の先端でラジオ波を発生させて、直径3cmの球状の熱凝固を形成することで腫瘍を焼灼するラジオ波熱凝固療法(RFA)が最も一般的に行われています。手術に比べて体への負担が少ない治療ですが、腫瘍の場所によってはラジオ波熱凝固療法が適さない場合があることと、焼灼範囲が広いため合併症には注意が必要です。肝臓の周囲には重要な臓器があります。すぐ上(頭側)には心臓が、下には胃や大腸(結腸)があり、肝臓の表面の腫瘍をラジオ波治療すると、場合によってはそのような臓器を損傷して出血や腸穿孔による腹膜炎を起こすことがあります。また、熱凝固される領域の中に肝臓内の重要な血管や胆管が入っていると、それも同じように凝固されます。そして、凝固により血管(動脈や門脈)が詰まると、その血管が養う範囲はすべて壊死ししてしまいます。その範囲が大きければ肝機能へのダメージは大きくなります。胆管の場合も塞がったり狭くなったりすると黄疸などの症状が出ます。ラジオ波熱凝固療法の他に、従来からの穿刺局所療法として経皮的エタノール注入(PEI)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)がありますが、ラジオ波熱凝固療法ほどの有効性はないとされています。

肝動脈塞栓療法(TAE)

癌細胞に栄養を運んでいる動脈を人工物で詰まらせて癌細胞を死滅させようとする治療です。正常の肝臓組織は、酸素の多い肝動脈と、栄養物の多い門脈という2つの血管で養われていますが、進行した肝細胞癌は肝動脈のみに養われています。動脈を塞ぐと正常の肝臓組織は門脈からの血流で持ちこたえることができますが、肝細胞癌は大きなダメージを受けます。実際の治療では、動脈を詰まらせる物質に抗癌剤を混ぜてさらに効果を高める工夫をしています。実際の治療の方法は、局所麻酔をして大腿部の付け根の動脈から細いチューブ(カテーテル)を癌病巣近くの肝動脈の枝まで進め、抗癌剤と塞栓物質の注入を行います。

薬物療法

分子標的薬であるソラフェニブまたはレンバチニブによる治療を行います。ソラフェニブによる治療後に癌が進行してしまった場合、副作用などの問題がなくChild-Pugh分類のAに当てはまるときは、同じく分子標的薬である、レゴラフェニブを2次治療として用いることがあります。なお、レンバチニブを1次治療とした場合の2次治療については、まだ検討がなされている段階です。ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ以外にもいくつかの分子標的薬が肝細胞癌に効くのではないかと期待されており、現在、世界規模で臨床試験が行われています。

肝移植

Child-Pugh分類Cの肝細胞癌でミラノ基準に当てはまる場合には肝移植の適応となります。ミラノ基準とは、肝臓に限局した肝細胞癌で、腫瘍数が3個以下で腫瘍径が3cm以内、単発ならば5cm以内でかつ血管や胆管の侵襲を伴わない、という条件を満たすものです。最近、もう少し条件を緩和しても良いのではないかと我が国の全国データが分析され、5センチ以下、5個以下でAFPという腫瘍マーカーが500ng/ml以下という拡大された条件が提唱されました。近い症例ここまで保険適応となることが期待されています。また、肝移植は非常に侵襲の大きな手術であることから、移植を受ける患者様が65歳以下であることがもう一つの条件となります。Child-Pugh分類Cで移植治療が不可能な場合は緩和医療が唯一の選択肢となります。

肝内胆管癌

肝内胆管癌に対しては、外科手術が唯一の根治が見込める治療法です。腫瘍が肝臓に限局しており、切除後に肝予備能に見合った十分な肝臓の容積が残る場合に手術を行います。外科手術の適応がないと判断される場合は薬物療法(抗癌剤)を行います。外科手術後に再発をきたした場合には薬物療法の適応となります。

手術

肝細胞癌と異なりリンパ節に転移しやすいなどの特徴があり、肝切除に加えて所属するリンパ節を「郭清」といって、一緒に取り除く手術を行うことがあります。

薬物療法

胆管癌に対する薬物療法としてゲムシタビンとシスプラチンという抗癌剤の併用療法を行います。よくみられる副作用として、吐き気、倦怠感、食欲不振、骨髄抑制などがあげられます。また、長期間繰り返し投与することによってシスプラチンによる腎機能障害、難聴、末梢神経障害などの副作用がみられることがあります。

転移性肝癌

転移性肝癌の治療は原発病変によって異なります。手術の適応となる原発疾患は、主に大腸癌と神経内分泌腫瘍(NET)です。その他の癌からの肝転移の切除の意義はまだ確立されておらず、個数が少ないなどの条件が良い症例や抗癌剤が著効した場合などにケースバイケースで肝切除が検討されます。胃癌、消化管間葉系腫瘍(GIST)、乳癌、卵巣腫瘍などからの肝転移が時に切除されることがあります。転移性肝癌では穿刺局所療法(ラジオ波など)は局所再発が多く根治的治療とはなりません。

手術

転移性肝腫瘍に対する手術は、①肝臓以外に転移がなく、原発病変が切除されているまたは切除可能であること、②切除後に肝予備能に見合った十分な肝臓の容積が残ること、③肝転移の切除を行うことで予後の延長が望めること、が適応となります。切除後に残った肝臓に再発した場合でも、上記の条件を満たせば再度肝切除の適応となります。大腸癌肝転移の場合、肝切除の適応となる腫瘍数や大きさに上限はありませんが、数や大きさが増えるにつれて予後が悪くなるため、腫瘍数が多い場合は術前に化学療法を行うこともあります。胃癌肝転移に対しては、一般的に3個以内が手術の適応となり、肝転移が5cm以下あるいは原発病変が漿膜へ露出していないものは比較的予後が良いとされています。術式は腫瘍の大きさと場所、脈管への浸潤の有無にもよりますが、腫瘍の切除断端陰性を確保した上でできるだけ正常肝実質の切除量の少ない肝切除を行います。転移性肝癌切除後の肝臓に再発した場合に、再肝切除が選択できる可能性を残すためです。

薬物療法

転移の元になった原発臓器に応じた全身抗癌剤治療となります。当初は切除不能な転移性肝癌でも、抗癌剤治療によって腫瘍が縮小し肝切除が可能になることがあります。

放射線治療

肝臓癌の治療としては、まだ研究結果の蓄積が十分ではなく、標準治療としては確立されていません。骨に転移したときの疼痛緩和や、脳への転移に対する治療を目的に行われることがあります。