更新日:2019年5月27日

11. 退院・自宅療養について

退院は、点滴が終了して、自分で食事が摂れる・歩行に問題がない状態になったら可能です。個人差・手術内容の差もありますが、術後9日目~21日前後で退院となります。食事についての栄養指導や、自宅での過ごし方の説明を受けてから退院となります。各施設によって、退院までの日数、食事指導についても異なる場合がありますので、担当医に確認しましょう。

自宅療養:

退院後は、まず自宅で、身の回りの事をする事から始めることをお勧めします。病院はバリアフリーになっているため、自宅内で移動したり、階段を使ったり、身の回りの事をするだけでも、体力を使います。病院で術後に行なっていた呼吸機能のリハビリや、食事の練習をしながら、徐々に活動を広げていきましょう。

1) 困ったことがあったら

退院後困った事があったら、治療を受けた病院か若しくは地域のがん診療拠点病院に問い合わせて下さい。しかし、食道がんは比較的まれな疾患ですので、治療を受けた病院に問い合わせされた方が、より安心だと思います。

2)気をつけること

術後はとくに食事に関して気を付ける必要があります。今までは、食べ物は食道を通過してお腹に溜まっていましたが、これからは、胃管や他の臓器が胸のなかにあり、食べ物は胸に一旦溜まります。食べてすぐ横になったり前屈みになったりすると、容易に逆流し嘔吐してしまうこともあります。食べてすぐに横にならず、すくなくとも1時間は状態をおこしていてください。また、夜間、横になって寝ているときも、胃液や食べ物が逆流してくることがあるかもしれません。繰り返しおこる場合は、枕をしたり、布団の下に座布団を敷くなどして上半身を高くする様な工夫が必要です。

内服薬に関して、各施設間でも考え方に相違があるかもしれませんが、鎮痛解熱剤として使用する、ロキソニン、ボルタレンなどと呼ばれるNSAIDSという種類の薬は避けましょう。長期に使用すると挙上した再建胃管の血流を悪くして、潰瘍が出来て穿孔したり出血したりしてする可能性が高いです。かかりつけ医が多い場合、特に整形疾患等で痛み止めを使用する・歯科治療で鎮痛剤を使用することなどがあるかと思いますが、鎮痛剤の使用については、食道がん治療を担当された先生に確認の上で、使用してください。

3) 食事と栄養療法について

術後の特徴として、①再建臓器が胸にあるため食べものが胸に溜まる事、②吻合部が多少狭くなる可能性があるため、大きなものを一口で飲みこむと引っかかることがあります。

①に対しては、食後1時間程度上体を起こしておく事、②に対しては、一口を大きくせず少しずつ食べる事が大事です。これは体の構造が変わった為、術後はずっと守らなければなりません。

食事量ですが、始めの2カ月ぐらいは吻合部のむくみや炎症が落ち着くまで以前の半分以下に抑えた方がよいです。一口も小さじ1杯弱にして一口ずつ飲みこんでいくのが大事です。2ヶ月を過ぎた時期から、体調も吻合部の通過も少し良くなりますので、一口は小さじ1杯分ぐらいですが、食事量を徐々に増やしてください。半年を過ぎた時期から少し多めに食べたほうが食事量が増える事が多いです。食事量が減る為、体重も平均的6〜8Kg程度減少しますが、無理に戻そうとしなくても結構です。平均的には、標準体重から10%減の間に術後3か月かけて減少します。それ以後は少しづつ増加傾向に向かいます。

食事内容に関してですが、術後2ヶ月程度は、消化の良いものを中心にした方がよいですが、基本的に食べるものには制限はありません。刺身や、貝類、肉料理など食べても大丈夫ですが、一口を小さじ1杯分ぐらいに小さくして食べてもらうことが大事です。牛乳や脂肪の多いものは下痢をしやすいので注意しましょう。

食事回数についてですが、基本的には1日3食で良いのですが、人によっては最初は6食にわけて少量づつ食べた方が良い人もいます。1食に入る量がどうしても少なく、途中で空腹になってしまう方もいますので、午前と午後に間食を入れても良いかと思います。但し、あまり食事が取れないからと言って、1日の食事回数を2回以下に減らすことは避けた方が良いです。体重が極端に下がっていきます。普通の食事がどうしても入らない場合は、間食で栄養剤などを飲むのも良いかと思います。

また、施設によっては、しばらくの間、経腸栄養チューブを挿入して栄養剤を使用している施設もあります。そのようなチューブを用いて日々栄養を補給することも可能です。

4) 運動について

退院後に家で寝たきりになることは避け、自宅での生活をゆっくりと行って下さい。それだけでも始めはかなりのリハビリになります。徐々に、外出での散歩などを取り入れて運動を積極的に行なってください。自分のペースで結構ですが、術後入院中に行っていた呼吸機能リハビリや散歩を中心に、徐々に運動量を広げていく方が良いかと思います。いきなり無理して過度な運動をすることは避けた方が良いです。最終的には、以前に近い体力に戻れるように日々の積み重ねが大切です。

5)職場復帰について

リハビリが進んで、自信が付いたならば職場復帰は可能です。退院後、平均1~3ヶ月で職場復帰する方が多いです。しかし、始めは時短など、少しずつ休みながら仕事をするのが良いかと思います。

6)定期健診

退院後は、最初は1ヶ月毎に外来診察を行う施設が多いです。その後2ヶ月に1回となり、1年を過ぎた頃から、1年に3回程度の外来となります。検査としては、5年目までは、1年に2-3回程度のCT検査と採血検査、1年に1回の内視鏡検査を行い、再発のチェックをして行きます。また、重複癌のチェックのため、3年に1度大腸内視鏡検査も行った方が良いでしょう。5年を経過すれば、再発の危険性はほとんどなくなりますが、異時性重複がん(咽頭・喉頭がん等)や挙上した胃管がんの可能性は残りますので、1年1回の健診を続けることをお薦めします。

食道がんの術後の内服薬に関しては決まったもの・絶対に必要なものはないのが現状ですが、食道がん手術の特徴として反回神経(声を出す神経)がやや弱くなる方もいる為、施設によっては、ビタミンB12製剤の内服と、術後長期の食欲亢進と免疫活性のために十全大補湯の内服をしているところもあります。また、整腸剤を処方している施設もありますので、担当医に確認しましょう。

12. 術後補助療法について

切除した組織の病理結果でリンパ節に転移があった場合、再発予防として術後補助化学療法を行う場合があります。化学療法の種類(5-FUとシスプラチンの併用療法など)、投与期間、副作用など治療についてよく理解しておく必要があります。しかしながら、術後補助化学療法については、優位性を証明する根拠が十分でないのが現状です。補助化学療法を受ける前に外来で主治医、看護師、薬剤師などから十分に説明を聞きましょう。特に患者さんが高齢者の場合は、家族の方も一緒に治療内容や副作用について理解しておくことが大事です。もし、分からないことや不安がある場合は必ずスタッフに相談しましょう。また、治療中に体調不良や副作用と思われる症状が起きた場合も病院に連絡をして相談しましょう。

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